「生命倫理と死生学の現在⑦」 ~人は何のために生まれ、どこに向かっていくのか~
(3)「遺伝子医療」と「人格的アイデンティティー」の相克
①究極の個人情報たる「遺伝情報」の持つ意味
「ヒトゲノム計画」(Human Genome Project)~人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)には23対の染色体に記されており、約2万2000個の遺伝子があるとされます。2000年6月に国際チームと米国セレラ・ジェノミクス社がそれぞれ概要を解読したと発表しましたが、国際チームはさらに解読を続け、生命活動に欠かせない約28億3000万個の塩基配列の解読を終え、2003年4月に「完成版」にこぎ着けました。開始から13年がかりの大事業で、貢献度は米国59%、英国31%、日本6%、フランス3%、ドイツ・中国1%です。全塩基配列の0.1%に当たる約300万個の配列は個々人で違い、この違いは一塩基多型(SNP、スニップ)と呼ばれていて、病気のなりやすさに関係することが分かっています。ここから患者1人1人の遺伝子のタイプを調べ、その患者に効き目があり、副作用が無い薬を処方するといった「オーダーメイド医療」(Made-to-order medicine)の可能性が出てきます。こうしたゲノム関連技術は医療、健康、農業、工業など様々な分野で活用され、こうした動きを経済協力開発機構(OECD)ではバイオエコノミー(Bioeconomy)と呼び、は2030年には1.6兆ドルの市場に成長するとの試算されています。
しかし、遺伝子の3分の1は働きの推測すらできておらず、実際にたんぱく質を作り出す遺伝子の部分は約2%とされていますが、これも確定されていません。1つの遺伝子の変異で起きる病気(単一遺伝子疾患
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