「It’s a long way to go.」移民局の列で知った、自分の居場所の重み

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アメリカの大学に在学していた頃、私は一度、冷や汗をかいたことがあります。
I-20(留学生資格証明書)に大学側のサインをもらうのを、うっかり忘れたまま一時帰国してしまったのです。

再入国時、空港で告げられたのは「仮の入国許可」でした。
当時は、30日の猶予期間内に、必要書類を整え、管轄のイミグレーションセンターへ提出しなければならないということでした。

大学でサインをもらい、ダウンタウンにある移民局へ向かいました。
建物に入って、まず目に飛び込んできたのは、長蛇の列でした。
老若男女、年齢も人種もばらばの人たちが、黙って順番を待っています。どこか張りつめた空気が、フロア全体に漂っていました。

私も、その列に加わりました。
見たところ、メキシコ系と思われる人が多いようです。ただ、それは見た目の印象にすぎず、正確なことは分かりません。

けれど一つだけ、はっきりと感じたことがあります。
ここに並んでいる人たちが背負っている事情は、「書類の不備を直しに来ただけ」の自分とは、重さがまったく違う、ということです。

そう思った瞬間、頭の中で、別の連想が始まりました。

カリフォルニアは、もともとメキシコの領土でした。
正確には、スペイン領を経てメキシコ領となり、19世紀半ばの米墨戦争の結果、アメリカに組み込まれた土地です。

そして、その流れの前段に、アメリカ側の記憶として残る事件があります。
1836年、テキサス革命の最中に起きた「アラモの戦い」です。

実際の軍事的な規模以上に、アラモは“象徴”になりました。
「Remember the Alamo(アラモを忘れるな)」というスローガンが、人々の結束を生み、物語をつくり、次の時代の空気を後押ししました。

1848年の講和条約によって、カリフォルニアを含む広大な地域がアメリカ側に移りました。
地図の色は塗り替えられましたが、土地の記憶までは消えませんでした。

ロサンゼルス。
サンフランシスコ。
サクラメント。
どれも、スペイン語由来の名前です。

「そういえば」と思い、前に並んでいた年配の男性に声をかけました。メキシコ系と思われる、穏やかな表情の人でした。

「ロサンゼルスやサンフランシスコって、名前はみんなスペイン語由来ですよね」

彼は少し驚いたように私を見て、うなずきました。
「そうだな」

そして、にやりと笑いました。
「でもな、発音は“ロスアンヘレス”が正しい」

ちゃめっ気たっぷりにウィンクして、“Los Ángeles” のスペイン語の発音を、ゆっくり教えてくれました。

「ありがとう」
私は礼を言って、少し間を置いてから、聞いてみました。

「アメリカで暮らしていくのかい?」

彼は一瞬、言葉を探すように視線を落しました。

「It’s a long way to go.」

それだけ言って、もう何も続けませんでした。
それ以上、私は何も聞けませんでした。
列はゆっくりと前に進み、やがて彼の姿は、窓口の向こうに消えていきました。

そのとき、妙に身が引き締まる感覚がありました。
アメリカの大学で学んでいる自分は、「学生生活」という言葉の軽さに、どこか甘えていたのだと思います。

学べること。
ここにいられること。
それが当たり前ではないという現実を、移民局の無言の列と、たった一言の会話が、静かに教えてくれました。

それ以来、私は少しだけ、緊張感を取り戻して学生生活を送るようになりました。
大げさな決意ではありません。ただ、「ここにいる」という事実を、軽く扱わないようにしようと思っただけです。

「It’s a long way to go.」
あの一言が、しばらく頭から離れませんでした。

それは、現在を生きる私にとっても、日本人であるという自覚と、これからの日本が向き合っていく移民問題というテーマの両方を、同時に思い出させてくれる出来事でもあります。


■ 相手の「背景(正体)」を知ると、見え方が変わる

社会の成り立ちも、個人の人生も、表面だけでは見えない「重さ」や「背景」を抱えています。
これは、私たちの身近な人間関係や、職場の問題においても同じです。

「なぜ、あの人はあんな態度をとるのか」
「なぜ、この職場はこんなに息苦しいのか」

表面的な出来事(書類の列)だけを見ていると疲弊してしまいますが、一歩引いて相手の「背景」や、その場の「構造」に気づくことができると、驚くほど冷静に向き合えるようになります。

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