現代社会読本①~少子高齢化、多様化、ユニバーサル化、情報化、グローバル化など、急激に変化する現代社会について、基本的な理解と知見を持つことは重要です。

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1、超高齢社会(super-aging society)

(1)高齢化(aging)
 現代の日本は高齢化社会(aging society)から高齢社会(aged society)へと突入し、さらに超高齢社会(super-aging society)へと向かいつつあります。このことは単に医療・福祉のみならず、経済・環境・教育・社会制度そのものに深刻な影響を及ぼしています。高齢化社会とは高齢者(65歳以上)の全人口に占める比率(高齢化率)が7%を超えた社会(日本は1970年に突入)であり、高齢社会とは14%を超えた社会(日本は1994年に突入)のことです。これは1950年代、国連が国の分類上示したもので、この割合は国別での人口高齢化の早さの比較のためによく用いられています。以前はこの両者を混同して使っているケースもしばしば見られましたが、今日では明確な区別がされています。高齢化率が7%(高齢化社会突入)から14%(高齢社会突入)に至るまでの年数を比べると、フランスが114年、スウェーデンが82年かかりましたが、日本はわずか24年しかかかっておらず、これは平均寿命の延びと少子化によるものとされます。そして、2010年に高齢化率は23%を超え、超高齢社会に突入しました。2020年には高齢化率が28.6%となり、2050年には約39%になると予想されています。  
 また、1997年には年少人口(15歳未満)を高齢人口が上回ったのみならず、子供のいる世帯数をも高齢者のいる世帯数が上回っています。2002年には75歳以上の「後期高齢者」が初めて1000万人を超え、2023年には2000万人を突破しました。65歳以上の高齢者だけか、高齢者と18歳未満の未婚者のみで生活している世帯である「高齢者世帯」も2019年に2500万世帯を超えました。
 また、世界人口が2022年に80億人を突破しました。2050年には約97億人に達すると予想されていますが、その一方で「高齢化」が世界的脅威となっています。2024年には約30歳だった世界の平均年齢は2050年には10歳強も高くなると見られ、日本も現在、平均年齢は世界でもトップクラスの約50歳ですが、これが2050年には53.2歳まで高くなって世界トップクラスを維持すると予測されています。「高齢化の進行」は先進国に共通しており、「少なく産んで、大切に育てる」という風潮が浸透しているとも言えますが、地球的規模ではむしろ「人口爆発」という現象が深刻です。ただ、発展途上国を中心として「人口爆発」問題が収拾されていっても、最終的には全世界的な「高齢化」問題は避けられないため、先進諸国が先駆けて解決の道筋を示す必要があるとされます。

(2)年齢差別(ageism)
 米国で2020年の時点で高齢人口が全人口の16.8%で、20%を超えている州は1つもありません。そして、65歳以上の高齢者の約20%が就業中であると言います。米国では高齢者に意欲(productive aging 「前向きな生き方」)や能力がある限り、思う存分働くことができますが、その背景には年齢を理由とした解雇や採用などを禁止する法律「雇用における年齢差別禁止法」の存在があります。これは人種や性への差別問題意識が高まった1960年代に、「年齢差別」も不当な差別に当たるとして、1967年に成立した法律です。現在では定年制の年齢上限が撤廃されており、ドイツ、イギリスも同様です。特に米国では、これという決まった履歴書の様式は何もなく、年齢、両親の名前、本籍地を記載する必要もなければ、写真を貼る必要もありません。求人広告には、人種、民族、性別、年齢、宗教、信条、障害、性的嗜好などにより差別されないことが明記されているのです。
 年金や介護保険などは生産年齢人口(15~64歳、現役世代)が高齢人口を支えることになりますが、日本では1960年では現役世代11.2人で1人の高齢者を支える状態でしたが、1995年には4.8人、1980年には7.4人、2014年では2.4人となりました。このため、勤労者の重負担感(税金)やそれに伴う勤労意欲の低下が懸念されていますが、現状が継続した場合2050年では1.7人、2060年には高齢者1人に対して現役世代が約1人となり、高齢者と現役世代の人口が1対1に近づいた社会は「肩車社会」と言われています。現在、15歳の人であれば、これから超高齢社会を支えなければならないという意識にはなりやすいですが、50年後には自分が高齢者となり、かつてない負担を負わせる側になるということは意外に意識されていません。確実に自分自身の問題となるのです。これまでのように、とかく高齢者を社会保障サービスの受け手としてだけ考える発想には限界があり、高齢者の自立を様々に支援し、高齢者も社会の一員として、その知識や経験、経済力を役立ててもらえるよう、社会の在り方を変える必要があるとされます。

(3)社会保障(social security)
 国民負担率とは、税収の国民所得に対する割合である租税負担率と、医療保険や年金のための社会保障負担の国民所得に対する割合である社会保障負担率を足したものですが、日本の国民負担率を見ると、日本の社会保障は欧米諸国に比べて中間的な水準にあると言えます。2021年の日本の国民負担率は48.1%、フランス68.0%、スウェーデン55.0%、ドイツ54.9%、イギリス47.6%、米国33.9%ですが、将来の国民負担となる財政赤字を加味した潜在的国民負担率では、コロナの影響もあり、62.7%となりました。政府は潜在的国民負担率を50%以下に抑える必要があるとしています。
 家族が支え、さらに地域や職域を単位とした社会保険による「共助」、政府の「公助」が「自助」をどのように補うか、といった問題は社会観や国家観でも違ってきますが、社会保障をめぐる国際的な潮流は、「高福祉・高負担」の北欧型、公的サービスが少なく、「自助努力」を求めるアメリカ型、その中間の「中福祉・中負担」のドイツ・フランス型に分けられ、「大きな政府」対「小さな政府」という近年の政界再編の対立軸にも通じる構造となっています。医療・福祉・年金といった「社会保障の充実」は誰でも願うところですが、これは「財源、国民負担」といった問題と常にセットなのです。

(4)社会的入院(hospitalization for non-medical reasons)
 「社会的入院」とは慢性病などで病状が安定し、入院治療を受ける必要が無いのに、病院や診療所に入院していることを指し、高齢者の入院患者数は約80万人ですが、そのうち10万人以上が「社会的入院」と言われています。自宅に介護者がおらず、入居する福祉施設がないなど社会的な理由によります。病院のベッドが老人ホーム化する費用は医療保険から支払われ、老人医療費を押し上げる要因になっており、介護保険の大きな狙いとしても「社会的入院解消」が掲げられています。患者調査によれば、高齢者の入院患者のうち、受け入れ条件が整えば退院可能な人は2割近いと言います。また、現在、65歳以上の約16%が認知症であると推計されており、そのうち精神病院に入院しているのは約5万人とも言われています。これは家族も支えられず、介護施設も足りない状況の中で生まれた「痴呆難民」と呼ばれており、生活と環境を重視したグループホームや在宅サービス、介護施設の整備、それに精神医療の根本的改革なしに解決はないと指摘されています。さらに日本には約300万人もの「寝かせきり老人」がいますが、北欧にはそもそも「寝たきり老人」という概念がありません。実際、「介護を支えるのは社会」という常識を持つ北欧の手厚い公的介護の背景には、「親子といえども別人格、別居が当然」という高齢者の強い自立意識があると指摘されています。

(5)介護保険(nursing care insurance)
 高齢者の介護を社会全体で支えていく「介護の社会化」を目指し、国民から保険料を徴収して、寝たきりや痴呆状態の高齢者に介護サービスを提供する介護保険法が1997年12月に成立し、1999年10月から介護が必要かどうかを判断する「要介護認定」作業が始まり、2000年4月から施行されました。各種世論調査でも国民の多数が創設を望み、8割を超える人がそのための保険料負担を「当然」「やむを得ない」と答えていました。制度の中身がはっきりしていない段階から国民の多くが賛成し、負担増にも肯定的であることはきわめて異例とされます。そのポイントは以下の通りです。
①保険料は40歳以上の全国民から徴収する
②保険給付の対象は原則として65歳以上で、介護が必要である人とする。40歳から64歳の場合は、介護を必要としても脳卒中や初期の痴呆などの老化を伴うものでない場合は対象外である
③介護保険を運営する主体は市町村と東京都23区で、財源は要介護高齢者が払う利用料が費用の1割、残りの9割を保険料(50%)と公費(国25%、都道府県12.5%、市町村12.5%)が半分ずつ負担する
④市町村による要介護認定をもとに、指定されたサービス提供機関から在宅サービス(ホームヘルパーの派遣、リハビリの支援、訪問看護、介護器具の貸与など)や施設サービス(特別養護老人ホーム・老人保健施設・介護体制の整った医療施設などへの入所)を受ける
介護保険で利用者の相談に応じ、1人1人に適したサービスが受けられるよう、事業者などと調整をする専門職が「ケアマネジャー」(介護支援専門員)です。医師、薬剤師、保健師、看護師、介護福祉士、歯科衛生士、はり・きゅう師などを原則として5年以上経験した人を対象に都道府県の試験があり、合格して制度の実務など入門編的な講義内容である「現任研修」を受けた人が登録されます。さらにケアマネジメントの評価方法や組織運営などに踏み込み、特に訪問介護を拒否する高齢者への対応や、家族関係が複雑な場合など、処遇が困難な事例の研究を重視する「専門研修」を経て、上級資格を持つケアマネジャーは自らケアプランを作成する一方、他のケアマネに適切な指導・助言を行います。

(6)老人ホーム(homes for elderly people)
 人間の尊厳にとって大きな意味を持つ「日常性」を持ち込ませなくすると、皆「臨床的貧困」に陥るとされます。例えば老人ホームなどでは、持ち込める私物を7つ以下に制限する。カギのかかる引き出しも与えない。朝になっても顔をふく、うがいをするぐらいで歯磨きはさせない。起きても洋服は着替えさせない。お風呂は日本人の習慣である寝る前でなく、朝とか昼間に入れる。また、管理するために細かな規則を作ってそれを守らせる、といった具合です。これは、「朝6時に起きましょう」「朝ご飯は7時です」「用のない時は部屋をでないで」「他の人の部屋には入らないように」「ドアはいつでも開けておいて下さい」「面会の時間は何時から何時までですので、お帰り下さい」といった規則になるわけです。
 また、介護保険の理念に従って、高齢者の自立した生活を支援するには従来の施設では限界があることが分かり、特別養護老人ホームなど介護施設の機能や役割を見直す取り組みが進んでいます。例えば、厚生労働省は原則4人部屋の特別養護老人ホームを完全個室化する方針を決め、介護施設の位置付けを「収容の場」から「暮らしの場」へと見直す政策転換に踏み切りました。こうした「施設革命」のキーワードは「小規模」「多機能」「地域密着」とされます。例えば、10人前後を1つの生活単位(ユニット)とする新たな施設介護の方法「ユニットケア」は、職員を固定してなじみの関係を作りながら、少人数の家庭的な雰囲気の中で、高齢者1人1人が自分のペースで生活できるのが利点であり、流れ作業的な集団処遇が普通だった施設の介護を個別の介護に転換させたもので、「ケアの革命」とも言われています。また、自宅にいる高齢者が日中を特養などで過ごすのは「デイサービス」(日帰り介護)ですが、これに対して施設の高齢者が近くの民家に出かけ、家庭的な雰囲気の中で地域での暮らしを楽しむ試みは、「逆デイサービス」と呼ばれています。さらに小規模な介護の拠点(サテライト)を各地に設け、施設から出張する「サテライト・デイサービス」に加え、小規模拠点にショートステイ(短期入所)や訪問介護の機能を持たせ、なじみの環境の中で高齢者の暮らしを支える仕組みが模索されています。こうした「何でもありのコンビニ介護」「小規模多機能施設」による地域介護が介護保険で可能になれば、利用者の選択肢が増え、最終的に大規模特養に入る必要が無くなってくると予想されています。

(7)健康寿命(Healthy Life Expectancy)
 日本では急速に高齢化が進み、「長寿大国」を(a country where many people live to an advanced age)誇っています。今や「人生80年時代」に突入し、さらに「人生100年時代」に向っていると言えますが、これは生活水準の向上や栄養摂取の改善、医療の進歩に伴う乳幼児死亡率の低下や伝染病の克服などが原因と見られ、今後もがん、心臓病、脳卒中の三大死因が克服されれば平均寿命が大きく延びるとされます。厚生労働省が2000年から実施している健康作り計画「健康日本21」では、減塩や歩行習慣の強化、喫煙や飲酒の減少を通じて、脳卒中や心筋こうそくの死亡率を低下させる数値目標を掲げており、計画通りに進めば平均寿命が延びていくことは当然予想されます。今後は、健康はもちろん、生きがいも持った「成功長寿」(a healthy and long life)を目指す必要があり、「量」だけでなく「質」も問題、という課題が浮き彫りにされてきています。
そうした中、平均で何歳まで健康に生きられるかを示す国別の「健康寿命」を、世界保健機構(WHO)が2000年6月に初めて発表しました。従来、発表されている「平均寿命」(the average life expectancy)は、年齢ごとの死亡率から計算されており、健康状態はどうなのかという「寿命の質」(Quality of Life)までは分かりませんでした。新しい指標である「健康寿命」は、平均してどの年齢まで健康に暮らしていけるかを示すもので、病気やけがで健康が損なわれている期間を平均寿命から差し引いています。これによると、日本の健康寿命は平均寿命より約10年差がありますが、世界で最も健康に長生きできる国と位置付けられました。また、最近「PPK(ピン・ピン・コロリ)」が理想と言われるようになりましたが、これは「元気に生きて、死ぬ時はコロリと」という意味で、長患いをせず、寿命と健康寿命の差を縮めていこうというもの。長野県内で中高年の健康作りのキャッチフレーズに使われたのが始まりとされます。
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