悠真は、ずっと好きだった人。 そのはずだった。

悠真は、ずっと好きだった人。 そのはずだった。

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コラム
「じゃあ、また明日。」

陽菜が手を振る。

「うん。また明日。」

笑って返したはずなのに、胸の奥はまだざわついていた。

家までの道を、一人で歩く。
さっきまで隣にいたのに。

もう声は聞こえない。
それだけなのに、急に静かになった気がした。

信号待ちで立ち止まる。
赤信号の向こうを、小学生が笑いながら走っていく。

その笑い声を聞きながら、
凪はさっきの会話を何度も思い返していた。

「だから今は、まだ分かんないかな」
その言葉を聞いた瞬間。
胸がふっと軽くなった。

あの感覚は何だったんだろう。

「……変なの。」
小さくつぶやく。

陽菜が悠真を好きじゃなくて安心した。
その事実だけは、どう考えても否定できなかった。

でも、
どうして安心したのかは分からない。

悠真は、ずっと好きだった人。
そのはずだった。

もし陽菜が悠真を好きでも、おかしくない。
むしろ二人なら、お似合いだとさえ思える。

なのに。
想像しただけで苦しかった。

「なんで……。」
答えは出ない。

家に帰って制服を着替え、
夕食を食べても。
お風呂に入っても。
歯を磨いても。

気づけば同じことばかり考えている。

ベッドに寝転び、スマートフォンを手に取る。
画面には陽菜とのトーク。

最後のやり取りは、さっき別れたあとに届いた一通だった。

『今日は話してくれてありがとう😊』
たったそれだけ。

なのに、自然と頬がゆるむ。

すぐに返信を打つ。
『こちらこそ。また明日。』

送信。
既読はつかない。

それでも不思議と待つ時間は嫌じゃなかった。

スマホを胸の上に置いて、天井を見つめる。

恋って、もっと分かりやすいものだと思っていた。

会いたくて。
ドキドキして。
手をつなぎたくなって。
そんなものだと。

でも陽菜といると違う。
ドキドキより先に、ほっとする。

無理に笑わなくていい。
沈黙も怖くない。
そんな相手は初めてだった。

そのとき、スマートフォンが震えた。

『私も。また明日ね🌸』
短い一文。

それだけなのに。
胸の奥に、小さな灯りがともる。

凪は画面を閉じることができず、
何度もその文字を読み返した。

「……おやすみ。」
誰に聞かせるでもなく、小さくつぶやく。

部屋の窓から夜風がそっと入り込み、
カーテンを揺らした。

その風はどこか、
陽菜の隣を歩いていた帰り道の空気に似ていた。

凪はまだ知らない。
誰かを好きになる瞬間は、大きな衝撃ではなく
「また明日」が、こんなにも待ち遠しいと気づいた日から、
静かに始まっていることを。
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