好き、なのか? 安心、なのか?
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コラム
部屋の灯りは、やわらかいままだった。
時計の針が、静かに進んでいる。
凪は、ベッドに横になったまま、
天井を見ていた。
さっきの言葉。
自分で言った言葉。
「……すきかも。」
小さく、もう一度つぶやく。
その響きに、自分で少しだけ驚く。
(ほんとに……?)
胸に手を当てる。
どくん、と心臓が鳴る。
でも、それは、
強く跳ねる感じじゃない。
やわらかく、あたたかい感じ。
(これ……)
少しだけ目を閉じる。
思い出すのは、蓮の横顔。
やさしい距離。
無理をしなくていい空気。
(……安心、してた)
その言葉が、すっと落ちる。
好き、なのか。
安心、なのか。
まだ、はっきりしない。
でも、
そのどちらも、そこにある気がした。
「……でも。」
小さく、つぶやく。
悠真の顔が浮かぶ。
あの帰り道。
あの言葉。
「勝手に決めるな。」
胸が、少しだけ締めつけられる。
(あのとき……)
ちゃんと聞こうとしてくれていた。
逃げようとしていたのは、
自分だったのかもしれない。
(わたし……)
少しだけ、息を吸う。
(ちゃんと、向き合ってない)
そのことに、気づく。
悠真の気持ち。
自分の気持ち。
どっちも、曖昧なままにしている。
「……だめだよね。」
ぽつりと、こぼれる。
ベッドの上で、少しだけ体を丸める。
(ちゃんとしなきゃって思うと、苦しくなるのに)
それでも、
逃げたままじゃ、いけない気がする。
蓮といると、楽だった。
でも、それだけで決めていいのかは、わからない。
(わたし……)
天井を見つめる。
白い光が、
少しだけにじむ。
「……どうしたいんだろう。」
答えは、まだ出ない。
でも、
ひとつだけ、わかることがある。
さっきよりも。
昨日よりも。
自分の気持ちが、少しだけ見えてきている。
そのとき、
スマホが、小さく震える。
凪は、ゆっくり手を伸ばす。
画面を見る。
――悠真。
名前を見た瞬間、
心臓が、少しだけ強く鳴る。
指が、止まる。
開くかどうか、迷う。
でも、ゆっくり、
画面をタップする。
「さっき、ごめん。」
短い一文。
その言葉が、まっすぐ届く。
凪は、少しだけ息を止める。
胸の奥が、揺れる。
さっきまでの気持ち。
蓮のこと。
安心のこと。
全部、重なってくる。
(……どうしよう)
すぐに返せない。
でも、無視もできない。
指が、少しだけ動く。
止まる。
また、動く。
その繰り返し。
夜の静けさの中で、
凪は、ひとつの画面と向き合っていた。
そして、まだ知らない。
この一通が、
これからのすべてを、
少しずつ動かしていくことを。