はじめに:法律の「落とし穴」にハマっていませんか?
「従業員が10人未満の会社には、就業規則の作成・届出義務はない」
経営者の方であれば、どこかで一度は耳にしたことがある法律知識かもしれません。労働基準法第89条には、確かにそう読み取れる記述があります。
これを根拠に、「じゃあ、うちはまだ人数も少ないし、面倒だから作らなくていいや」「法律違反じゃないなら大丈夫だろう」と安心されている経営者様。
はっきり申し上げます。その認識は、会社経営において極めて危険な「勘違い」です。
「届出義務がない」ことは、「作らなくてもリスクがない」こととイコールではありません。むしろ、人数の少ない小規模な組織だからこそ、ひとたびトラブルが起きれば、そのダメージは会社の存続に関わるほど甚大になります。
なぜ「10人未満でも就業規則が必須」なのか。その残酷な現実をお伝えします。
落とし穴①:ルールがない会社は「モンスター社員」の天国になる
就業規則がない状態とは、例えるなら「法律も警察も存在しない国」のようなものです。
例えば、遅刻を繰り返す社員、上司の指示に従わない社員、職場の雰囲気を悪くする社員が現れたとします。経営者であるあなたは「いい加減にしろ!」と怒り、何らかの処分(減給や出勤停止など)を下したいと思うでしょう。
しかし、就業規則に「懲戒規定(どんな悪いことをしたら、どんな罰を与えるか)」が明記されていなければ、会社は社員を法的に罰することができません。
「社長の気分で給料を下げられた」と訴えられれば、ほぼ確実に会社が負けます。解雇なんて論外です。
ルールがない会社では、「やったもん勝ち」がまかり通ります。真面目に働く他の社員のモチベーションは下がり、やがて優秀な人材から辞めていき、会社には問題社員だけが残る……。そんな「組織崩壊」の引き金になりかねません。
落とし穴②:もらえるはずの「数百万円の助成金」をドブに捨てる
経営者にとって最も分かりやすいデメリットが「お金」の話です。
国は中小企業向けに様々な助成金(キャリアアップ助成金など)を用意していますが、そのほとんどが「就業規則(またはそれに準ずる規定)が整備されていること」を申請の必須条件としています。
たとえ従業員が1名でも、助成金を申請するためには、きちんとした就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出て、その控えを提出しなければならないケースが大半です。
「知らなかった」では済みません。本来なら数百万円単位で得られたはずの事業資金を、ただ「就業規則を作っていなかった」というだけの理由で逃してしまう。これほど大きな機会損失はないはずです。
落とし穴③:トラブル発生時、裁判で「瞬殺」される
従業員との間で、「残業代が払われていない」「不当解雇だ」「パワハラだ」といったトラブルが発生し、万が一、労働審判や裁判になったとします。
この時、裁判官が真っ先に確認するのが「会社のルール(就業規則)はどうなっていたか?」という点です。
就業規則がなければ、会社は自社の正当性を主張する根拠を失います。すべては「言った言わない」の水掛け論になり、労働者保護が強い日本の法律下では、ルールを整備していない会社側が圧倒的に不利な立場に立たされます。
結果として、高額な和解金やバックペイ(未払い賃金)の支払いを命じられ、会社の資金繰りが一気に悪化するリスクがあるのです。
結びに:就業規則は、経営者である「あなた」を守るための防具
従業員数が少ない会社ほど、経営者と従業員の距離は近く、「うちは家族みたいなものだから」という意識が働きがちです。信頼関係はもちろん大切ですが、それは「なあなあ」で済ませて良い理由にはなりません。
むしろ、少人数だからこそ、一人のトラブルが会社全体を揺るがします。
就業規則は、従業員を縛るためのものではありません。真面目に働く社員を守り、そして何より、経営者であるあなた自身と会社を守るための「最強の防具」なのです。
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