父の弁当を、私は捨てていた。
ー えんたくの、しずかな物語 ー・・・母が死んでから、父は、単身赴任のまま、月に一度だけ、家に帰ってくる人になった。私は、高校生だった。・・・父と、二人きりの、月に一度。気まずくて、しかたなかった。何を、話していいか、わからない。・・・それだけじゃ、ない。私は、ずっと、思っていた。私がいなければ、父は、もっと自由に、生きられたんじゃないか。母が死んだあとも、父が家に帰ってこないのは、私が、いるからじゃないか、と。・・・一度だけ、父が、ぽつりと、言ったことがある。台所で、背を向けたまま。「……もう少しで、こっちに、戻れそうなんだ」・・・私は、「ふうん」と、だけ言った。どんな顔を、すればいいか、わからなかったから。・・・単身赴任先へ、戻る日の朝。父は、必ず、私に、弁当を、持たせた。・・・料理なんて、できない人だった。いびつな、おにぎりと、焦げた卵焼きを、白い紙で、無造作に包んだだけの、弁当。・・・おにぎりは、いつも、しょっぱすぎた。卵焼きは、いつも、焦げていた。・・・私は、その弁当を、学校の帰り道で、こっそり捨てていた。中身も、見ずに。・・・月に一度の、その弁当を。私は、毎回、ゴミ箱に、押し込んでいた。・・・ある日。父が、単身赴任先で、倒れた。くも膜下出血だった。単身赴任先へ、戻った、その日の、ことだった。・・・知らせは、私が、まだ学校に、いる間に、届いた。・・・その朝、父が、私に持たせた弁当はまだ、カバンの中に、あった。いつもみたいに、捨てる。その、前だった。・・・私は、そのまま、病院へ、走った。・・・父は、すぐに、手術室へ、運ばれた。長い、手術に、なると言われた。・・・廊下の、
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