前回(第3回)は、受験生全員に共通する2時間・3,000字という制約のルールの中で、答案に書くべき優先順位①〜⑤を紹介しました。
今回はその掘り下げです。特に⑤「事実を最低限踏まえた検討をすること」について、事実の抜き出しを端折りながら多くのことを検討する具体的な方法を説明します。
1:事実は「要約するもの」である
「事実を拾うほど良い答案になる」と思っている受験生は多いです。しかし、前回(第3回)も述べた通り、事実の抜き出しに字数を割くべきではありません。3,000字以内で答案を完成させなければならないわけですから、事実を引き写すほど、優先して書くべき字数の枠を圧迫します。
事実を引き写した方が点数が入るのであれば、極端なことをいうと、書き写した事実の文字数に比例して点数が高くなることになりますが、もちろんそのような試験ではありません。また、第1回でも紹介した、刑法と刑訴を2,300字(答案用紙4枚)で書いた刑事系7位の合格者の答案は、事実の抜き出しは必要最小限でした。
したがって、現在の司法試験のルールを前提とする場合、合理的に考えて、事実の抜き出しは「最小限」にとどめざるを得ないのです。
一方で、事実を無視して答案を作成することも当然のことながら出来ません。したがって、このジレンマを解消するためには、事実は「抜き出すもの」ではなく「要約するもの」という戦略を採らざるをえません。
2:「要約」で構わない理由
ここまで聞いても、これまで教わってきた前提と違うため、抵抗感を感じる受験生もいると思いますので、いくつか裏付け的な話をします。
もちろん、何の意味もなく事実を抜き出している訳ではないことは私も理解しています。しかし、なぜ問題文の事実を抜き出す必要があるのか、その理由を考えてみると、そのまま抜き出さなくても良いことに気がつくはずです。
設問の問いに答えるためには、問題文で示された事情に着目して個別具体的に検討する必要があります。着目すべき事情を示すために、問題文の事実を抜き出す必要があります。
そうだとすると、問題文のどの事情に着目しているかが採点者に適切に伝わりさえすれば、目的は達成されるはずです。事実を長々と引き写さなければ伝わらないものではありません。
加えて、採点者は受験生と同じ問題文を読んでいますし、むしろ採点者の方が問題文の事情について把握しているはずです。だとすれば、問題文の事実をそのまま答案に書き写さずとも、どこの事実に言及しているかが適切に伝わりさえすれば十分であり、一言一句丁寧に抜き出す必要はないはずです。
また、そもそも論として、司法試験は前回(第3回)も述べた通り、実務家登用試験です。
実務家になるための司法修習に進めるだけの最低限必要な基礎的な力を有する人材か否かを見ています。その判断のポイントは、「問いに答えられる人材か」否かです。「問いに答える」とは多義的な側面があるため、今後も様々な角度から説明しますが、この文脈では、「法的な思考のプロセスを踏まえて検討する基本的な力を有する人材」です。したがって、そういった観点から判断するうえで、法的三段論法を基本とした文章が書けているかを見ています。事実を沢山抜き出すことが出来たとしても、法的思考力を有しているかは判断できませんし、やはり、司法試験の目的から考えても事実の抜き出しにこだわる理由はなさそうです。
3:「要約」の方が「抜き出す」よりも難しい
一方で、「要約」することに抵抗感を感じた方がいるとすれば、「要約」は、「事実を捻じ曲げているのではないか?」、「自分で勝手に事実を作り出していることになるのでは?」と感じたからではないでしょうか。
その感覚は正しい懸念です。要約によって、問題文とは異なる文脈に読み取れてしまったり、存在しない事実をでっち上げたりしてはなりません。
ですので、上記でも述べた通り、採点者に「適切に」伝わるように言及することが重要なのです。
つまり、「要約」は、字数を減らせる一方で、そのまま抜き出すよりも「難易度が上がる」のです。
したがって、慣れないうちは、要約したつもりが異なる意味に読み取れてしまったり、あるいは、要約しすぎて意味が伝わらない等のミスが出ます。また、要約する際には、「問題文の事実を読む⇒意味を考える⇒頭の中で要約した文章に変換する⇒答案に書く」という作業過程を経るため、慣れるまでは書き写すよりも時間がかかります。
つまり、要約出来るようになるためには訓練が必要となります。
4:事実の抜き出しにこだわることによる弊害
要約の方が難しいのであれば、事実を引き写した方が、簡単かつリスクが少ないようにも思えてしまいます。
しかし、事実をそのまま抜き出すことは、字数(時間)を圧迫する以外にも弊害があります。
その大きな弊害の一つが、問題文を長々と抜き出すことによって、「答案を書けた気になってしまい、何が言いたいのかが伝わりにくくなる」リスクがあることです。
特に、「規範に即して検討する」という、あてはめの大原則が頭から抜け落ちやすくなります。その結果、自分の設定した規範に沿ったあてはめをしていなかったり、ただ事実を抜き出しているだけで評価をしていなかったり、規範で設定していない考慮事情について検討してしまっている、というような大失点に繋がりかねないミスを起こしやすくなります。
ですので、最初は難しくとも、事実を要約する意識を持ちましょう。
5:要約の仕方(条文すら抜き出さない)
では、要約の仕方ですが、明確な決まりがあるわけではありません。「採点者に、『一義的な意味で』伝わるように」書けれていれば、どう書いても構いません。
ただし、この「一義的」という点が重要です。受験生の答案を読んでいると、「〇〇とも読めるが、△△とも読み取れる」という内容の答案を良く見ます。こういった答案は、採点者に「誤りがあるのではないか?」と粗探しをされるかのように、丁寧に読まれやすくなってしまいます。
事実の要約の場面に限りませんが、採点者に「ストレスを与えない」ようなわかりやすい文章を書くことは何よりも大切です。
📌 次回取り上げますが、一番良い答案とは、「ミスを見落とされるくらい、流し読みできるような答案」です。
言うのは簡単ですが、これは実はものすごく難しいことです。弁護士業務をしていると、敵対する事件の相手方であっても、「これは凄い!」と褒めたくなるような、わかりやすく、かつ説得力のある文章を書く人もいれば、ベテランの人であっても、長くてわかりにくい文章を書く人もいますし、様々な文章を目にします(私の文章は、わかりやすい文章になっているでしょうか…)。
私も含めてですが、得てして、「自分が書いている文章を、当然相手は理解しているだろう(むしろ、わからない相手の方が悪い)」くらいに思ってしまいがちです。しかし、目の前にいる人に話す場面でも誤解させることはよく起こるくらいですから、「思っている以上に、自分の文章は人に正しく伝わっていない」と思っていたほうが良いです。
ご存じのように、法曹実務家の仕事は、口頭でのやり取りよりも、文章でのやり取りの方が圧倒的に多いです。ゆえに、「弁護士は、文章の一語一語に、命を懸けるんだ」と先輩弁護士から言われたことがありますが、実務について、ようやくその意味が少しずつわかるようになってきました。
前回(第3回)も触れましたが、私は学生時代に、元裁判官の教員から、「小学生でもわかるような文章を書きなさい」とお言葉をいただきましたが、その言葉の意味の重さに気が付いたのは、3回目の受験の時でした。
皆さんも、わかりやすい文章を書く意識をもっていただければと思います。
受験生の答案を見ていて、特に字数が長くなりがちなのは、行政法の手続きの流れを説明したりするような、法律の文言を引用する場面です。
多くの受験生は、条文の文言をそのまま全部引き写し、条数を書いたうえで、自分の言葉も足して説明します。その結果、手続きの流れだけわかれば十分なのに、その説明部分だけで、答案用紙半枚以上も費やしているような答案をよく見ます。
これでは貴重な時間を大幅にロスしていますし、書き写している間は思考もストップしてしまうため、二重の意味で損をしています。
そこで、条文もそのまま抜き出すことをやめましょう。
こういうことを言うと、「条文の文言こそ、要約したら意味が変わるリスクがある」と言われるかもしれません。
条文の文言を要約するのではありません。条文文言を引用する目的は、手続きや規定の要件・効果などの根拠として示す点にあるのですから、条文ではなく、手続の流れ(あるいは規定の内容)を要約して説明し、その根拠として「条数を文の間に埋め込んで」あげれば良いのです。
具体的には、例えば次のような感じです。
前回も紹介した、令和5年行政法「設問1⑵」について、社会福祉法人Aの解散と、解散によって業務執行理事Dの地位がどうなるのかという点について、設問の問いに従って、社会福祉法人法を踏まえて説明する手続部分について載せています。
なお、アンダーラインの色付けについては、次回取り扱いますが、赤色は、問題文の事実に関する文を表しています。
【良い答案例(条数を間に入れて説明した例)】
【悪い答案例(条文文言をそのまま抜き出して説明している例)】
上記の通り、書いている内容も引用している条文も全く同じですが、要約しても意味は十分伝わりますし、むしろ、簡潔でありながら、根拠も明確かつ、わかりやすいことに気が付くはずです。
事実の抜き出しを減らすための訓練方法としては、時間無制限で良いので3,000字以内で答案を書くことを試してみることです。いきなり、「2時間」、「3,000字」という2つの変数を同時に扱うことは現実的ではありません。まずは「3,000字」のみで実践してみることです。
今までに作成したことのある答案を、同じ内容のままで3,000字に圧縮できるかを試してみるのでも良いと思います。
慣れないうちは、この作業にすごく時間がかかりますが、出来るようになると、端的かつわかりやすい文章がスムーズに書けるようになりますので、推敲してみましょう。
🌸 今回のポイント
①:事実は「要約するもの」である
②:条文を抜き出すことはやめよう
③:事実の「抜き出し」は弊害が大きい
④:「要約」の方が「抜き出し」よりも難しいので訓練は必要
今回は以上です。次回も、引き続き、事実の抜き出しを減らすことについて取り扱い、答案を色付けすることによる分析方法についてお話しします。
この記事の内容を踏まえて、 自分の状況に当てはめて整理したい方へ。
例えば、問題文の事実や条文をそのまま丸写しして答案を書いている人は、「問いに答えていない」答案になっている可能性が極めて高いため、個別のご相談を検討していただければと思います。
上記の内容に限りませんが、現在の学習状況や、悩みなどをお聞きして、現在どういう状態にあるのかを分析して、何が問題となのかを特定し、何を優先すべきかを一緒に整理します。
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答案をご提供いただければ、それも踏まえて分析いたします。