……好きって、なんだろ。
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コラム
スマホの画面を、ゆっくり開く。
指先が、少しだけ冷たい。
表示された文字。
「いいよ。」
たった、それだけ。
凪は、少しだけ息を止める。
短い。
でも、その一言がやさしく落ちてくる。
(……怒ってない)
胸の奥が、少しほどける。
そのあとに、もう一行。
「ちゃんと話そう。」
凪の指が、止まる。
その言葉。
逃げ道を残してくれているのに、
ちゃんと向き合おうとしてくれている。
(……やっぱり、ずるい)
小さく、笑う。
でも、
その笑いは、少しだけあたたかい。
スマホを胸に置く。
天井を見る。
さっきまでの迷い。
蓮との時間。
安心。
全部、そこにある。
でも、その中で、
ひとつだけ、はっきりしてきたものがある。
(ちゃんと、向き合いたい)
誰かにじゃなくて自分に。
そして、悠真に。
そのとき、ふと思い出す。
蓮の声。
「無理してること、あるんじゃない?」
凪は、小さく息を吐く。
(……あるよ)
心の中で答える。
ずっと、無理してた。
ちゃんとしようとして。
嫌われないようにして。
自分を押し込めてた。
でも、さっきは、違った。
(……あの時間を思い出す。)
やわらかい空気。
自然に笑えた感じ。
「……好きって、なんだろ。」
ぽつりと、こぼれる。
安心すること?
ドキドキすること?
どっちも、違う気がする。
どっちも、ある気もする。
凪は、ゆっくりと目を閉じる。
胸の奥に、
二つの気持ちが静かに揺れている。
蓮。
悠真。
違う形。
違う距離。
どっちが正しいとかじゃない。
どっちが自分にとって本当なのか。
そのことに、少しずつ向き合い始めている。
スマホが、もう一度震える。
凪は、ゆっくり目を開ける。
画面を見る。
「明日、話せる?」
悠真から。
短い。
逃げられない問い。
凪は、少しだけ息を吸う。
指を動かす。
迷いながら、
でも、止まらずに。
「うん」
これだけだけど、この文字に、
今の自分が全部乗っている気がした。
( 送信。)
画面が、静かに戻る。
凪は、スマホをそっと置く。
天井を見る。
もう、さっきとは違う。
迷いはある。
でも、決めたこともある。
明日、ちゃんと話す。
その先がどうなるかは、
わからない。
でも、逃げない。
それだけは、決めた。
夜は、静かに更けていく。
そして、
明日、何かが動き出す。