絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

5 件中 1 - 5 件表示
カバー画像

……好きって、なんだろ。

スマホの画面を、ゆっくり開く。指先が、少しだけ冷たい。表示された文字。「いいよ。」たった、それだけ。凪は、少しだけ息を止める。短い。でも、その一言がやさしく落ちてくる。(……怒ってない)胸の奥が、少しほどける。そのあとに、もう一行。「ちゃんと話そう。」凪の指が、止まる。その言葉。逃げ道を残してくれているのに、ちゃんと向き合おうとしてくれている。(……やっぱり、ずるい)小さく、笑う。でも、その笑いは、少しだけあたたかい。スマホを胸に置く。天井を見る。さっきまでの迷い。蓮との時間。安心。全部、そこにある。でも、その中で、ひとつだけ、はっきりしてきたものがある。(ちゃんと、向き合いたい)誰かにじゃなくて自分に。そして、悠真に。そのとき、ふと思い出す。蓮の声。「無理してること、あるんじゃない?」凪は、小さく息を吐く。(……あるよ)心の中で答える。ずっと、無理してた。ちゃんとしようとして。嫌われないようにして。自分を押し込めてた。でも、さっきは、違った。(……あの時間を思い出す。)やわらかい空気。自然に笑えた感じ。「……好きって、なんだろ。」ぽつりと、こぼれる。安心すること?ドキドキすること?どっちも、違う気がする。どっちも、ある気もする。凪は、ゆっくりと目を閉じる。胸の奥に、二つの気持ちが静かに揺れている。蓮。悠真。違う形。違う距離。どっちが正しいとかじゃない。どっちが自分にとって本当なのか。そのことに、少しずつ向き合い始めている。スマホが、もう一度震える。凪は、ゆっくり目を開ける。画面を見る。「明日、話せる?」悠真から。短い。逃げられない問い。凪は、少しだけ息を吸う。指を動かす。迷い
0
カバー画像

ずっと飲み込んでいた言葉が、 今、ここで出てきた

家の前まで来て、凪はバッグから鍵を取り出した。そのとき。スマートフォンが、もう一度震える。今度は短く、はっきり。胸が一瞬、跳ねる。画面を見る。——悠真。さっきの優しい一行とは違う。ごめん。さっき言わなかったけど…今日、凪と一緒にいられて嬉しかった。凪の指が、止まる。夜の音が、すっと遠のく。——言わなかった、って。橋でも。カフェでも。駅前でも。ずっと飲み込んでいた言葉が、今、ここで出てきた。胸の奥が、熱くなる。嬉しい。でも、それ以上に——「どうして今?」という気持ちが混ざる。返事を書こうとして、止まる。また消す。画面に映る文字が揺れる。私も楽しかったそれだけじゃ足りない。ありがとうそれも違う。——本当は。“嬉しかった”って言われたことが、こんなにも嬉しい。しばらくして、凪はゆっくり打つ。……私も。だから、また行こう。送信。すぐには既読がつかない。夜は静かに戻る。でも凪は分かっていた。今日のこの一通で、もう「静かなまま」ではいられなくなったことを。恋は、はっきり一歩進んでしまった。
0
カバー画像

次は、どんな顔で会うんだろう

改札を抜けたあと、凪は一度だけ振り返りそうになって、やめた。もう、見なくても分かっている。悠真は、あの場所に立ったまま、少し遅れて歩き出すはずだから。ホームへ向かう階段を下りながら、胸の奥が、静かに忙しい。——楽しかった。——また、会う。言葉にすると簡単なのに、現実になると、こんなにも余韻が残る。電車が来るまでの数分。スマホを取り出しても、画面は見ない。代わりに、さっきの視線を思い出す。触れなかった距離。でも、確かに縮まっていた距離。悠真は、「また誘ってもいい?」と聞いた。凪は、「待ってる」と答えた。約束じゃない。でも、逃げ道のない言葉。電車が入ってくる音がして、凪はやっと前を向く。——次は、どんな顔で会うんだろう。学校かもしれない。放課後かもしれない。また、あの店かもしれない。確かなのはひとつだけ。今日で、この関係は「何もなかった昨日」には戻れなくなった。電車がホームに滑り込んできて、風が一瞬、凪の髪を揺らした。乗り込む人の流れに身を任せながら、凪はドアの近くに立つ。ガラスに映った自分の顔は、少し前より、やわらいで見えた。——待ってる。さっき言ったその言葉が、胸の奥で、まだ温かい。電車が走り出す。街の灯りが、線になって流れていく。凪はつり革につかまりながら、今日一日の場面を、静かにたどる。橋の上。教室。カフェのテーブル。駅前の別れ。どれも派手じゃない。でも、どれも確かに、「選んだ時間」だった。スマホが、軽く震える。通知ではない。ただ、ポケットの中で動いただけ。それでも凪は、ほんの少しだけ息を止めてから、また自然に呼吸を戻した。——次は、きっと。そう思えることが、もう答えみたい
0
カバー画像

もう、逃げられない

スマートフォンを胸に抱いたまま、凪はベッドにごろんと横になる。天井を見つめると、さっきまで普通だった部屋が、少しだけ違って見えた。嬉しかった。たった一言。それだけなのに、心の奥がずっと温かい。画面をもう一度開く。新しい通知は、まだ来ていない。なのに、来そうな気がしてしまう。その予感だけで、胸がきゅっとなる。「……ばか」小さく呟いて、枕に顔を埋める。橋の上で近づいた距離。カフェで向かい合った時間。駅前で交わした約束みたいな言葉。全部が、ちゃんとつながっている気がした。スマートフォンが、また震える。今度は短く、軽く。画面に浮かんだのは――おやすみ。また明日。その一行に、凪の心臓が一気に跳ねる。ゆっくり、指を動かす。おやすみ。また明日ね。送信。既読がつくのは、ほんの一瞬だった。凪は思わず笑ってしまう。もう、逃げられない。でもそれが、嫌じゃなかった。布団をかぶって目を閉じる。夜は静か。なのに胸だけが騒がしい。恋は、音を立てずに始まるものだと思っていた。でも本当は、こんなふうに――静かに、でも確実に、心を占領していくものなんだ。凪はそのまま、小さな幸せを抱えたまま眠りについた。明日が来るのが、少しだけ楽しみで。
0
カバー画像

昨日と同じはずなのに、少しだけ、目の奥が違う

街灯の下を通り過ぎるたび、影が少し伸びて、また元に戻る。凪は歩きながら、スマートフォンを握った指先に、まだ残っている温度を感じていた。——見なかった。——返さなかった。それは、逃げじゃない。今は、そう言い切れる。立ち止まって、小さく息を吐く。静かな住宅街。誰かの家の窓に、明かりが灯っている。当たり前の夜が、当たり前に続いている。凪は、もう一度だけ空を見上げる。雲の切れ間に、星がひとつ。——明日、会う。それだけで、胸の奥が、少しだけ引き締まった。今日の夜に、無理に言葉を足さなくてよかった。そう思える自分が、ほんの少し、頼もしい。スマートフォンをバッグにしまい、歩き出す。“待ってる”と言ったのは、相手を縛るためじゃない。自分が、次の時間を選ぶためだった。玄関の前で立ち止まり、凪は深呼吸をひとつ。夜は、ここで終わる。でも、物語は終わらない。静かに、でも確かに、次の朝へとつながっている。凪はドアを開けて、いつもより少しだけ、やわらかな気持ちで、家に入った。布団に入って、電気を消しても、すぐには眠れなかった。凪は天井を見つめながら、呼吸のリズムを整える。スマートフォンは、バッグの中に入れたまま。取り出さない、と決めた。——今日は、ここまで。それが、自分を大事にする選択だった気がする。目を閉じると、カフェの窓際の席が浮かぶ。湯気。夕方の光。向かいに座る、悠真の横顔。言葉は少なかった。でも、足りなかったわけじゃない。凪は、「また来たい」と言えた自分を思い出す。あの一言で、時間はちゃんと前に進んだ。カーテンの隙間から、夜の街灯の光が差し込んでいる。その明かりが、少しずつ遠のいていく感覚。やがて
0
5 件中 1 - 5