朝起きられない子どもを前にすると、親は焦る。「このまま学校に行けなくなったらどうしよう」そんな不安が、毎朝のように積み重なっていく。
今回お話しするのは、ある女子中学生と、その保護者の相談です。
※この記事は相談内容をもとにしていますが、本人が特定されないように一部事実を改変しています。
「昼まで起きない」親からの相談
相談の始まりは、親御さんの一言でした。
「朝起きられないんです。いつもお昼の12時ぐらいにならないと起きてこなくて…。学校に行けなくて困っています」
詳しく聞くと、寝る時間が極端に遅いわけではありませんでした。だいたい22時〜23時には布団に入っている。それでも翌朝は10時〜12時まで寝てしまう。日によっては12時間以上眠ってしまうこともある、という状態でした。
起こそうとするほど、疲弊していく
親御さんは当然、朝7時や8時に起こそうとします。でもうまくいかない。
声をかけても反応がない。揺さぶっても起きない。起きても、また寝てしまう。
朝が来るたびに、「なんでだろう」というモヤモヤが積み重なっていく。焦りもある。疲弊感も出てくる。そんな様子がこちらにも伝わってきました。
学校に行きたくない理由は、見当たらなかった
「学校に行きたくない理由があるんじゃないか」と確認しても、いじめなどの明確な原因は見当たりません。
行ったら行ったで、特に大きな問題はない。本人も学校そのものを嫌がっている様子はありませんでした。
ただ、授業にはついていけなくなっていました。
親御さんの不安は、そこから一気に強くなります。
「中学生のうちはまだ何とかなるかもしれない。でも、このまま高校生になって授業に行けなかったら…退学になってしまうかもしれない」
「睡眠の問題かもしれない」と考えていた
最初、私は睡眠のリズムの問題を疑いました。
体内時計が後ろにずれているのかもしれない。この子は長時間眠らないとしんどいタイプなのかもしれない。
医師からは、リズムを整える薬も処方されました。ただ、それでも大きな変化はありませんでした。
親御さんは頑張ります。早く起こそうとする。学校に行かせようとする。なんとか戻そうとする。
でも現実が変わらないと、親の中には別の感情が出てきます。
「なんで起きないの?」「このままじゃまずいのに」
心配な気持ちがあるだけで、責めたいわけじゃない。どんどん焦ってしまう。
本人の本音は「特に困ってない」
何回か通院するうちに、少しずつ本人と会話できるタイミングが出てきました。
そこで本人がぽつりと言ったのが、意外な言葉でした。
「特に困ってない」
……そうなんだ、と思いました。
親御さんは困っている。将来が心配で仕方ない。でも本人は、今の生活でそこまで困っていない。
ここに大きなズレがあったんです。
起きられない「原因」より、起きる「理由」がなかった
私たち大人は、「起きられない原因」を探しがちです。病気なのか、性格なのか、環境なのか。何が悪いのか。
もちろん、原因を考えること自体は大切です。ただこの子の場合、少し違いました。
本人の中に、「起きる理由」がなかったんです。
親に言われたから起きる。怒られるから起きる。心配されるから起きる。
そういう「外からの理由」だけでは、動けないこともあります。
高校受験が近づいて、本人の中に目標が生まれた
しばらくして、高校受験の時期が近づいてきました。その頃から、本人の口から少しずつ「将来の話」が出てくるようになります。
「友達と、どこの高校に行きたいって話してて…」「高校に入ったら、一緒に吹奏楽部に入りたいねって言ってて」
そして、こう続きました。
「そのために、起きられるようになって授業についていけるようになりたい」
その瞬間、本人の中でスイッチが入ったのが分かりました。
1ヶ月後、学校に遅れず行けるようになった
その1ヶ月後、来院したとき。本人は学校に遅れず行けるようになっていました。
ここで大事なのは、気合いで勝ったわけじゃないということです。根性で乗り切ったわけでもありません。
本人の中で「起きる目的」が見つかった。それが行動を引っ張った。ただそれだけです。
足りなかったのは「起こす努力」じゃなく「会話」だった
親御さんや医療者は、「起きられない原因」を一生懸命探します。それは悪いことではありません。むしろ必要です。
でも時々、「本当の理由」が別の場所にあることがあります。
このケースでは、本人にとって「起きなきゃいけない理由がない」状態が続いていました。
親御さんは本人の将来のために必死です。だからこそ、起こそうと頑張ってしまう。
でも本人は、今困っていない。その不一致が、余計に苦しさを生んでいました。
解決策は、起こす努力を増やすことではなく、本人の中にある「やりたい」を一緒に探すことだったのです。
スパルタは逆効果になることもある
中にはスパルタで起こそうと頑張る親御さんもいます。でも、それは逆効果になることもあります。
親子関係が悪化して、余計に話さなくなる。反抗期と重なって夜更かしが増え、昼夜逆転が深まる。結果として、もっと動けなくなる。
足りなかったのは、愛情じゃありません。親の努力が足りなかったわけでもありません。
ただ、必要だったのは「会話」だったのかもしれません。
最後に「やる気」で片付けてはいけないこと
今回の話は、「動機づけ(目的)がないと起きられない」というケースでした。ただ実際には、睡眠不足や体内時計のズレ(リズム障害)が合併していることも多いです。
本人が「起きたいのに起きられない」状態のとき、気持ちの問題だけでは説明できません。その場合は無理に気合いで解決しようとせず、医療機関や専門家に相談してください。
「怠け」と決めつけないこと。そして、「起きる理由」と「眠れる条件」を、両方整えていくこと。
それが遠回りに見えて、いちばんの近道になることもあります。
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