「安い服」の裏側で、誰かが払っているコストのこと。
クローゼットを開けるたびに、着ない服がある。そういう経験は、誰にでもあるだろう。私にもあった。バブル時代から積み上げてきたブランド品が、クローゼットの奥に眠っていた。何年も袖を通していないのに、手放せない。なんとなく、もったいない気がして。あるいは、いつかまた着るかもしれない、という根拠のない期待を持ちながら。ある時、思い切って全部処分した。驚いたのは、その後だ。それらを処分して、何一つ、困ることがなかった。そして、後悔もなかった。スッキリした、というより、軽くなった。長年背負っていたものを、やっと降ろせた感覚。それと同時に、ふと思った。これだけのものに投資してきたお金と時間は、いったい何だったのか、と。手放せなかった理由、心理学が教えてくれること行動経済学に「保有効果(Endowment Effect)」という概念がある。人は一度手に入れたものを、客観的な価値以上に高く評価する傾向がある、というのだ。手放すことへの抵抗感は、そのものへの純粋な愛着ではなく、「損をする感覚」への恐怖だったりする。つまり、クローゼットに眠るブランド品を手放せなかったのは、服が好きだからではなく、手放すことで「負けを認める」ような気がしていたからかもしれない。処分してスッキリしたのは、当然の反応だ。実は最初から必要なかったものを、手放して初めて気づいた...。心理学的には「認知的明確化」と呼べる状態だという。何一つ困らなかった、後悔もなかったという事実は、それをそのまま証明している。バブル時代の消費行動は、モノへの欲求というより、「持っていること」へのアイデンティティの依存だったのだと、今なら思う。
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