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待ってる。 陽菜からの何かを。

家の前で、足が止まる。夜風が、少しだけ冷たい。さっきまで隣にいた温度が、ゆっくり離れていく。「じゃあね」陽菜が、小さく手を振る。凪は、少し遅れて頷いた。「……うん」そのまま、陽菜が歩いていく。街灯の下。少し揺れる髪。遠ざかっていく背中。凪は、しばらく動けなかった。胸の奥が、静かにざわついている。苦しい。でも、嫌じゃない。むしろ、離れたあとに、急に静けさが戻ってくる。凪は、ゆっくり家のドアを開ける。暗い玄関。誰もいない空気。いつもの夜。なのに、今日は少し違った。部屋に入って、バッグを置く。そのまま、ベッドに座る。スマートフォンが、机の上で小さく光っている。凪は、少しだけ見る。通知はない。なのに、視線が離れない。「……何やってるんだろ」小さくつぶやく。さっき別れたばかりなのに。もう会えないわけじゃないのに。でも、胸の奥が落ち着かない。凪は、スマートフォンを伏せる。深呼吸する。目を閉じる。でも数秒後、また手が伸びる。画面を開く。通知欄を見る。何もない。閉じる。また開く。凪は、そこでようやく気づく。“待ってる”。陽菜からの何かを。言葉を。通知を。繋がる感じを。その瞬間、胸が少し苦しくなる。「……やだ」小さな声。こんなの、知らなかった。誰かを、こんなふうに待ってしまう感じ。頭の中に残り続ける感じ。気づくと、同じ言葉を思い出している感じ。“凪が楽なほうが、見てて安心する”胸の奥が、また静かに熱くなる。凪は、スマートフォンをぎゅっと握る。「ちゃんとしなきゃ」考えすぎないように。気にしすぎないように。変にならないように。でも、その言葉のあとに、別の声が浮かぶ。今日は、これで十分なんじゃない?陽
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孤独がほどけ始める

ブランコは、もうほとんど揺れていなかった。夜風だけが、静かに通り抜ける。街灯の光が、二人の制服をやわらかく照らしている。凪は、鎖を握ったまま、少しだけ空を見上げた。胸の奥が、不思議なくらい静かだった。今までなら、誰かと長くいると疲れていた。ちゃんとしなきゃ。空気を作らなきゃ。変な間を作らないようにしなきゃ。そんなことばかり考えていた。でも、陽菜の隣では、沈黙が苦しくない。それが、まだ少し怖い。でも、嫌じゃなかった。陽菜が、ゆっくり足を止める。ブランコが、小さく揺れて、きい、と鳴る。「……遅くなってきたね」小さな声。凪は、少しだけ頷く。「うん」帰らなきゃ。時計を見れば、ふつうにそう思う。でも、立ち上がったら、この空気が終わってしまう気がした。凪は、少しだけ指に力を入れる。鎖が冷たい。「凪」陽菜が、静かに名前を呼ぶ。凪が顔を向ける。「今日さ」陽菜が少し笑う。「来てくれて、よかった」その言葉に、凪の胸が、また静かに揺れる。“来てよかった”。そんなふうに、自分の存在をそのまま受け取られる感じ。今まで、あまり知らなかった気がする。凪は、少しだけ困ったみたいに笑う。「……私も」声は小さい。ちゃんと本音だった。陽菜が、その言葉を聞いて、少しだけ安心したみたいに目を細める。沈黙。でも、もう怖くない。凪は、ゆっくりブランコから降りる。スカートの裾が、夜風に揺れる。陽菜も、少し遅れて降りた。帰り道。いつもの道。でも、今日だけは、少し違って見える。二人は、公園の出口へ向かって歩き出す。肩が触れるほど近くはない。でも、離れすぎてもいない。歩幅が、自然と合っていた。凪は、歩きながら思う。今まで、ずっと問
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みんなといるのに、どこか遠い場所にいるみたいになる。

夜風が、少しだけ冷たくなっていた。街灯の光が、陽菜の髪をやわらかく照らしている。凪は、その横顔を見たまま、うまく言葉が出せなかった。“無理にちゃんとしなくていいよ”その言葉が、まだ胸の奥に残っている。凪は、ゆっくり息を吐いた。でも、胸の苦しさは消えない。むしろ、少しずつ広がっていく。「……変だよね」小さく、凪が言う。陽菜が視線を向ける。凪は、少し迷ってから続けた。「ちゃんと人いるのに」風が吹く。ブランコが、小さく揺れる。「別に、一人じゃないのに」声が、少しかすれる。凪は、自分の指先を見る。昔から、誰かと一緒にいるのは苦手じゃなかった。笑うこともできる。合わせることもできる。困られないように、空気を悪くしないように。ちゃんとやれていた。でも、時々、ふっと苦しくなる。みんなといるのに、どこか遠い場所にいるみたいになる。「……なんか」凪が、小さく笑う。苦しそうな笑い方。「ずっと、“ちゃんといる”だけだった気がする」その言葉のあと、夜が少し静かになる。陽菜は、何も急がなかった。ただ、凪の言葉を待っている。凪は、少しだけ目を閉じる。言葉にしてしまった。今まで、ちゃんと外に出したことのない感覚。凪が、ゆっくり目を開ける。陽菜を見る。街灯の光の中。「陽菜といると」胸の奥が、少し熱くなる。怖い。でも、止めたくない。「……一人じゃない感じ、する」小さな声。消えそうなくらい。でも、ちゃんと届く声。陽菜の目が、少しだけ揺れる。驚いたみたいに。でも、すぐにやわらかくなる。「そっか」それだけ。たったそれだけなのに、凪の胸の奥が、ゆっくりほどけていく。理解された。そんな大げさなものじゃない。でも、ずっと閉
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前より、ちゃんと話してくれた

夜道は、思っていたより静かだった。公園を出ても、二人の歩幅は自然と揃ったまま。街灯が、一定の間隔で道を照らしている。その光の中を、凪と陽菜は、ゆっくり歩いていた。言葉は少ない。でも、沈黙が重くない。凪は、それがまだ少し不思議だった。誰かといる時は、いつも頭のどこかで考えていた。何を話そう。変な空気になってないかな。ちゃんと笑えてるかな。でも今日は、その“考える音”が、少し静かだった。「……凪」陽菜が、前を向いたまま名前を呼ぶ。凪が、少しだけ顔を上げる。「今日さ」陽菜が、小さく笑う。「前より、ちゃんと話してくれた」夜風が吹く。髪が、少し揺れる。凪は、少しだけ視線を落とす。「……そうかな」「うん」陽菜は、迷わず頷く。「前の凪って」少し考えるみたいに空を見る。「なんか、“正解の返事”探してる感じだった」その言葉に、凪の胸が、静かに揺れる。正解。たしかに、ずっと探していた気がする。どう返せば嫌われないか。どう返せば安心されるか。間違えないように。ちゃんとして見えるように。でも、陽菜と話していると、時々、“正解”より先に言葉が出る。「……変なの」凪が、小さく笑う。「陽菜といると、ちゃんとしようとするの忘れる」言ったあとで、少しだけ恥ずかしくなる。でも、陽菜は笑わなかった。「いいじゃん」やわらかい声。「そのほうが凪っぽい」凪の足が、少しだけ止まりそうになる。“凪っぽい”。その言葉が、思っていたより深く落ちてくる。今まで、“ちゃんとしてる”とは言われてきた。“優しい”とも。でも、“凪っぽい”と言われたことは、あまりなかった気がする。凪は、少しだけ前を向く。夜の道。静かな街。隣を歩く陽菜。胸の
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今、何を期待した?

昨日の夜のことが、夢だったみたいに思えた。朝の教室。窓から差し込む光が、机の上を白く照らしている。誰かの笑い声。椅子を引く音。教科書を開く音。いつもと同じ朝。いつもと同じ教室。なのに、凪の中だけが少し違った。机に頬杖をつきながら、窓の外を見る。青空。風に揺れる木々。ふと、昨日の夜を思い出す。"今日はもう十分なんじゃない?"陽菜の声。夜道。街灯。並んで歩いた時間。凪は、慌てて顔を上げる。まただ。今日だけで、何回思い出しているんだろう。「……変なの」小さくつぶやく。その時、教室のドアが開いた。凪の心臓が、一瞬だけ跳ねる。でも入ってきたのは、別のクラスメイトだった。凪は、自分でも驚く。今、何を期待した?視線を落とす。胸の奥が、少しだけざわつく。"違う"凪は心の中で言う。ただ、昨日たくさん話したから。ただ、少し安心したから。ただ、それだけ。なのに、否定しようとするほど、陽菜の笑顔が浮かぶ。"凪が楽なほうが、見てて安心する"また。、凪は額を机につける。おかしい。こんなの、今までなかった。悠真のことを考える時は、もっと違った。会えると嬉しい。優しいと嬉しい。話せると嬉しい。でも、今みたいに、気づくと頭の中にいる感じじゃなかった。もっと静かだった。もっと、わかりやすかった。じゃあ、これは何なんだろう。凪は、机の木目を見つめる。"私は陽菜のことが気になっているの?"その問いが浮かんだ瞬間、胸が大きく鳴る。違う。そう思う。でも、何が違うのかは、うまく説明できない。"私は普通だし"その言葉を考えた瞬間、凪は自分で違和感を覚えた。普通って、何だろう。昨日までなら、考えなかった問い。でも、陽菜と出会っ
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どうしたら嫌われないか、ばっか考えてたかも

夜は、ゆっくり深くなっていた。公園の街灯が、静かな円を地面に落としている。ブランコは、もうほとんど揺れていない。凪と陽菜は、並んで座ったまま、同じ夜風を感じていた。凪は、少しだけ空を見上げる。黒に近い青。その色を見ながら、胸の奥で、何かが静かに変わっている気がしていた。今までは、ずっと同じことを考えていた気がする。嫌われないように。変に思われないように。ちゃんとしていられるように。どうしたら、ここにいていい人になれるか。その問いばかりで、ずっと生きてきた。「……なんか」凪が、小さくつぶやく。陽菜が、ゆっくり視線を向ける。「私、ずっと」言葉を探すみたいに間が空く。ブランコの鎖が、かすかに鳴る。「どうしたら嫌われないか、ばっか考えてたかも」夜風が、髪を揺らす。その声は、少し恥ずかしそうで、でも、ちゃんと本音だった。陽菜は、何も急がない。ただ、凪の言葉が落ちる場所を、静かに待っている。「だから」凪が続ける。「誰かが怒ってると、自分のせいかなって思うし」少し笑う。苦しそうな笑い方。「ちゃんとしてないと、ダメな気がしてた」陽菜は、しばらく黙っていた。それから、小さく息を吐く。「凪ってさ」やわらかい声。「ずっと、“自分がどうしたいか”聞いてなかったんだね」その瞬間、凪の胸の奥が、静かに揺れる。“自分がどうしたいか”。そんなこと、考えたことがあっただろうか。どうすれば嫌われないか。どうすれば安心されるか。どうすれば空気を壊さないか。そればかりで、“自分”を置いてきた気がする。凪は、ゆっくりブランコを揺らす。ほんの少しだけ。前へ。後ろへ。「……わかんない」小さく言う。「私、何が楽なのかも、まだ
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ちゃんとしていれば大丈夫。優しくしていれば嫌われない。

ブランコは、ゆっくり揺れていた。きい、と小さく鳴る音が、夜の静けさに溶けていく。凪と陽菜は、並んで座ったまま、しばらく何も話さなかった。でも、その沈黙は、不思議と苦しくなかった。夜風が、二人の髪を揺らす。街灯の光が、足元にやわらかい影を落としている。凪は、鎖を軽く握ったまま、前を見ていた。“理解される価値がある”そんな言葉を、昔の自分は信じられなかった気がする。ちゃんとしていれば大丈夫。優しくしていれば嫌われない。空気を読めば、ちゃんとここにいられる。そう思っていた。でも、今こうして陽菜の隣にいると、それだけじゃなかったのかもしれないと思う。「……静かだね」凪が、小さく言う。陽菜が、少しだけ笑う。「うん」短い返事。でも、その声の温度が、やさしい。また沈黙が落ちる。普通なら、何か話さなきゃと思う時間。でも今日は、それがない。凪は、少しだけ不思議だった。誰かと一緒にいるのに、頑張って空気を作らなくていい。ちゃんと笑わなくていい。何か話題を探さなくていい。ただ、ここにいる。それだけでいい。その感覚に胸の奥が、少しだけ熱くなる。「……陽菜といると」凪が、ぽつりと言う。言葉を選ぶみたいに、少し間を空ける。「なんか」ブランコが、きい、と鳴る。「呼吸、楽」言ったあとで、凪は少しだけ視線を落とす。恥ずかしくなったみたいに。でも、陽菜は笑わなかった。からかいもしない。ただ、少しだけ目を細める。「そっか」小さな声。その一言だけで、凪の胸の奥が、また静かにほどける。陽菜が、足で少しだけ地面を蹴る。ブランコが、ゆっくり前に揺れる。「凪ってさ」夜風の中で、陽菜が言う。「ずっと息止めて生きてた感じする」凪
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