孤独がほどけ始める
記事
コラム
ブランコは、もうほとんど揺れていなかった。
夜風だけが、静かに通り抜ける。
街灯の光が、
二人の制服をやわらかく照らしている。
凪は、鎖を握ったまま、
少しだけ空を見上げた。
胸の奥が、
不思議なくらい静かだった。
今までなら、
誰かと長くいると疲れていた。
ちゃんとしなきゃ。
空気を作らなきゃ。
変な間を作らないようにしなきゃ。
そんなことばかり考えていた。
でも、陽菜の隣では、
沈黙が苦しくない。
それが、まだ少し怖い。
でも、嫌じゃなかった。
陽菜が、ゆっくり足を止める。
ブランコが、小さく揺れて、
きい、と鳴る。
「……遅くなってきたね」
小さな声。
凪は、少しだけ頷く。
「うん」
帰らなきゃ。
時計を見れば、ふつうにそう思う。
でも、立ち上がったら、
この空気が終わってしまう気がした。
凪は、少しだけ指に力を入れる。
鎖が冷たい。
「凪」
陽菜が、静かに名前を呼ぶ。
凪が顔を向ける。
「今日さ」
陽菜が少し笑う。
「来てくれて、よかった」
その言葉に、
凪の胸が、また静かに揺れる。
“来てよかった”。
そんなふうに、
自分の存在をそのまま受け取られる感じ。
今まで、あまり知らなかった気がする。
凪は、少しだけ困ったみたいに笑う。
「……私も」
声は小さい。
ちゃんと本音だった。
陽菜が、その言葉を聞いて、
少しだけ安心したみたいに目を細める。
沈黙。
でも、もう怖くない。
凪は、ゆっくりブランコから降りる。
スカートの裾が、夜風に揺れる。
陽菜も、少し遅れて降りた。
帰り道。
いつもの道。
でも、今日だけは、
少し違って見える。
二人は、公園の出口へ向かって歩き出す。
肩が触れるほど近くはない。
でも、離れすぎてもいない。
歩幅が、自然と合っていた。
凪は、歩きながら思う。
今まで、ずっと問い続けていた。
“どうしたら嫌われないか”。
“どうしたらちゃんとして見えるか”。
今、胸の奥に浮かんでいる問いは、
少し違う。
“私は、誰といる時に呼吸できるんだろう”
夜風が吹く。
陽菜の髪が、少し揺れる。
凪は、その横顔を見て、
少しだけ目を細めた。
答えはまだわからない。
でも、
今までと違う問いを持ち始めたことだけは、
ちゃんとわかっていた。