前より、ちゃんと話してくれた

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コラム
夜道は、思っていたより静かだった。

公園を出ても、
二人の歩幅は自然と揃ったまま。

街灯が、一定の間隔で道を照らしている。

その光の中を、
凪と陽菜は、ゆっくり歩いていた。

言葉は少ない。

でも、沈黙が重くない。

凪は、それがまだ少し不思議だった。

誰かといる時は、
いつも頭のどこかで考えていた。

何を話そう。
変な空気になってないかな。
ちゃんと笑えてるかな。

でも今日は、その“考える音”が、
少し静かだった。

「……凪」
陽菜が、前を向いたまま名前を呼ぶ。

凪が、少しだけ顔を上げる。

「今日さ」

陽菜が、小さく笑う。

「前より、ちゃんと話してくれた」

夜風が吹く。
髪が、少し揺れる。

凪は、少しだけ視線を落とす。

「……そうかな」

「うん」

陽菜は、迷わず頷く。
「前の凪って」

少し考えるみたいに空を見る。

「なんか、“正解の返事”探してる感じだった」

その言葉に、凪の胸が、静かに揺れる。

正解。
たしかに、ずっと探していた気がする。

どう返せば嫌われないか。
どう返せば安心されるか。
間違えないように。
ちゃんとして見えるように。

でも、陽菜と話していると、
時々、
“正解”より先に言葉が出る。

「……変なの」

凪が、小さく笑う。

「陽菜といると、ちゃんとしようとするの忘れる」

言ったあとで、少しだけ恥ずかしくなる。

でも、陽菜は笑わなかった。

「いいじゃん」

やわらかい声。
「そのほうが凪っぽい」

凪の足が、少しだけ止まりそうになる。

“凪っぽい”。
その言葉が、思っていたより深く落ちてくる。

今まで、“ちゃんとしてる”とは言われてきた。
“優しい”とも。

でも、“凪っぽい”と言われたことは、
あまりなかった気がする。

凪は、少しだけ前を向く。

夜の道。
静かな街。
隣を歩く陽菜。

胸の奥に、
また小さな問いが浮かぶ。

“私は、本当はどんなふうに笑いたいんだろう”

その問いは、まだ答えがない。
でも、前みたいに怖くはなかった。

陽菜が、少しだけ歩幅を合わせる。
肩は触れない。

でも、離れてもいない。
その距離が、今の凪には、
ちょうどよかった。
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