上司の指示に従わない、経営方針を公然と批判する、といった行動は、
就業規則上の
・「業務命令違反」
・「職場秩序を乱す行為」
・「上司への反抗的態度」
などに該当させておくことで、
懲戒対象とすることが一般的です。
1.前提として確認すべきポイント
まず、対応に入る前段階で、次の点を確認しておくといいです。
◎就業規則:
・業務命令違反、
・協調性欠如、
・会社方針の誹謗等
が「服務規律」に規定されているか
・その服務規律違反が「懲戒事由になる」と明記されているか
(服務規律違反=当然懲戒ではないため)
・懲戒の種類と各処分の対象行為が
具体的に列挙されているか(包括条項だけになっていないか)
◎過去の運用
類似事案に対して、
どの程度の処分・指導を行ってきたか
(公平性・一貫性確保のため)
これらの規定・運用があいまいな場合、
重い懲戒(特に減給・出勤停止以上)は
慎重な検討が必要になります。
2.第1段階:事実確認と「指導」での対応
(1) 事実確認・記録
・上司の具体的な指示内容、その指示が合理的・適法であること
・それに対する拒否・反抗的言動の具体的な文言、日時、場所、関係者
・経営方針の批判発言が、どの程度職場の秩序・士気に影響しているか
これを、上司からの報告メモ、同席者のメモ・メール等で
できるだけ記録に残しておきます。
(2) 口頭注意・指導(非懲戒)
いきなり懲戒ではなく、
まずは非懲戒の「指導」で対応する。
①本人との面談で、次を明確に伝える
・具体的にどの行為が問題なのか
・就業規則のどの条項に抵触する行為か(服務規律条文を示す)
・この段階では懲戒にはしないが、繰り返せば懲戒対象となること
②指導内容を書面化して交付する
指導書には次のような事項を記載します。
・どの行為を前提に指導しているか(具体的事実)
・今回は懲戒処分は課さないが、繰り返せば懲戒処分を検討すること
・同様・類似行為を行わないよう命じること
・事後に別の非違行為が判明した場合、その分も含め懲戒を検討すること
③必要に応じて、客観的な「顛末書」の提出を命じる
本人に
・「いつ、どのような言動をしたか」
・「その意図」
・「職場への影響認識」
・「再発防止策」
などを顛末書として書かせる(業務命令であり、懲戒ではない)
※反省文・謝罪文ではなく
「事実経過」中心にする(思想・良心の自由への配慮)
3.第2段階:軽い懲戒(戒告・譴責)
指導後も同様の業務命令違反や秩序攪乱行為が続く場合、
軽い懲戒を検討します。
(1) 使い分け(戒告・譴責)
◎戒告とは
・将来への注意喚起(最も軽微)
・通常、始末書は求めない
・口頭+書面通知で足りるケースが多い
◎譴責とは
・戒告より一段重い懲戒
・(書面による注意)+(始末書または顛末書)
・「正式な懲戒」であることを明示し、記録に残す
※始末書に「反省・謝罪」の記載を強制し、
その不提出を理由に再懲戒することは、
思想・良心の自由侵害として無効となる恐れがあります。
(▶顛末書方式が望ましい)
(2) 懲戒として譴責等に進む際の基本ステップ
◎就業規則上の懲戒事由との整合性確認
「上長の正当な指示に従わない行為」
「会社の秩序・風紀を乱す行為」
などに該当しているか。
◎客観的証拠の確認
・証拠(メール、録音、議事メモ、複数証言など)があるか
・本人が事実を認めているか。
◎弁明の機会付与
面談または書面で、次の点などを聴取し、議事録化する。
・「◯月◯日、次の発言・行為があったと聞いている。事実か?事情は?」
・「そのときの意図・背景」など
法律上の明文義務ではありませんが、
弁明を与えないと懲戒手続の適正を欠くとして、
処分無効の判断につながりやすいです。
◎処分の相当性の検討(複数名で合議)
行為の悪質性・継続性・周囲への影響・注意歴などを踏まえ、
譴責が重すぎないかを検討。
過去の類似事案とのバランス、
公平性も合わせて確認する。
◎懲戒処分通知書の交付・顛末書命令
・「懲戒の種類」
・「対象行為」
・「就業規則条文」
・「効力発生日」
を明記した通知書を交付。
あわせて顛末書提出を業務命令として命じる
(あくまで事実経過・再発防止策の記載)。
4.第3段階:重い懲戒(減給・出勤停止など)
・繰り返し指示に従わない、
・組織運営に相当の支障を生じさせている、
・チーム崩壊に近い状態を招いている、
などの場合、
減給・出勤停止といった
重い処分を検討することになります。
ただし、
これらは慎重さが強く求められます。
(1) 使い分け(減給・出勤停止)
◎ 減給
就労自体はさせつつ、制裁として賃金の一部を不支給とする処分。
※行為の内容・頻度・影響度からみて、
譴責では不十分といえるレベルかどうかを
慎重に検討する必要があります。
◎出勤停止
就労を禁じ、期間中の賃金支払いをしない処分。減給より重い。
5.第4段階:諭旨退職・懲戒解雇まで進むケース
業務命令違反や反抗的態度だけで、
いきなり諭旨退職・懲戒解雇まで進むのは、
一般にハードルがかなり高いとされています。
「指示に従わない」「方針に批判的」というレベルを超え、
・業務遂行そのものを妨害している
・重大な背信行為・企業秩序破壊に至っている
・再三の指導・懲戒にもかかわらず、改善の見込みがない
といった事情が累積的に認められる必要があります。
また、
懲戒解雇の場合、
退職金不支給等も伴うことがあり、
懲戒権濫用の判断は一層厳格に行われます。
どの段階でも、
・就業規則上の根拠
・客観的証拠
・弁明の機会
・過去事例との公平性
を押さえておくことが、
後の紛争予防の観点から重要です。