社会保険(健康保険・厚生年金)の適用範囲が段階的に拡大され、
より規模の小さい企業や短時間労働者も加入対象となっています。
経営者にとっては「法定福利費(会社負担分の社会保険料)の負担増」に直結するため、
コストシミュレーションや働き方の再設計についての相談が非常に多いです。
1.まず確認すべき「自社の立ち位置」
自社が特定適用事業所に該当しているか
現行(2024年10月以降)のポイントは次のとおりです。
法人は原則すべて「適用事業所」
そのうえで、
厚生年金の被保険者数(正社員+4分の3以上パート等)が
「常時51人以上」であれば、
短時間労働者についての適用拡大の義務あり(特定適用事業所)
実務では、
直近1年程度の被保険者数(正社員+4分の3以上パート)を月別に出し、
51人を超えている月が6か月以上あるか
を確認します(「常時」の考え方)。
2.対象となる短時間労働者の洗い出し
特定適用事業所に該当する場合、
「短時間労働者」に該当するパート・アルバイトを洗い出します。
(1) 「短時間労働者」に該当するかの判定
【前提】正社員の4分の3以上であれば、従来どおり当然に被保険者です。
「4分の3未満」で、
かつ以下をすべて満たす場合が
「短時間労働者」として
新たに加入対象となります(~2026年9月30日まで)。
①所定労働時間(週単位):20時間以上
②所定内賃金(月単位):88,000円以上(「106万円の壁」)
※賞与・残業代・通勤手当・家族手当等は含めません。
③雇用契約期間(見込):2か月超
④区分:学生ではない(【除】休学中の学生・夜間の学生・通信の学生)
※判定方法:
・所定労働時間:契約内容で判断
・所定賃金:契約内容で判断
・所定労働時間(シフト制の場合):月単位・年単位の所定時間から週平均
(2)法改正を踏まえた注意点
現時点で「年収を抑えて106万円の壁の内側に」といった
調整に依存した働き方設計は、
数年内に通用しなくなる前提で考える必要があります。
◎所定内賃金(月単位)について
2026年10月以降、
「月額8.8万円以上」という賃金要件が撤廃される予定
⇒ 残る3要件を満たせば、原則加入。
◎「適用事業所」について
2027年以降、
段階的に拡大され、撤廃。
3.コストシミュレーションの進め方
実務的には、以下のステップで進めることが多いです。
(1) 対象者リストの作成
現在のパート・アルバイト等について、以下の点を一覧にします。
◎所定労働時間(週単位)
◎所定労働日数
◎所定内賃金(月額換算)
◎雇用契約期間・更新状況
◎学生区分
このうち、「短時間労働者の要件を満たす(見込みが高い)者」を抽出します。
(2) 社会保険料の会社負担額の概算
①対象者ごとに、標準報酬月額の目安を設定
②都道府県・加入健康保険ごとの保険料率を用いて、
会社負担分(健康保険+厚生年金)の月額
本人負担分の月額を試算
実務上は、
「標準報酬月額○万円の人がn人増えると、
会社負担(年単位)はいくら増えるか」
という単位で集計します。
※保険料率や将来の改正により変動があります。
あくまで「目安」として扱い、
最新の料率表で都度確認する運用が必要です。
※「現時点では対象外だが、数年内に加入対象になる見込み」の層も
別途試算しておくと経営側の意思決定材料として有用です。
4.働き方・雇用設計の検討ポイント
適用拡大に対応するにあたり、
現場で論点になりやすいのは次のような点です。
(1) 「扶養の範囲内で働きたい」層への説明
社会保険に加入するとどう変わるのか。
【デメリット】
◎配偶者の被扶養者から外れる可能性
◎本人の保険料負担が増える 等
【メリット】
◎厚生年金の報酬比例部分の上乗せ
◎傷病手当金・出産手当金の保障 等
採用・定着の観点から考えると、
一方的にシフトを削るのではなく、
メリット・デメリットを丁寧に説明したうえで、
本人意向と事業運営上の必要性のバランスを検討することが重要です。
(2) シフト・所定労働時間の設計
週所定20時間を跨ぐかどうかについては、
今後さらに重要なラインになります。
ただし、2026年の賃金要件撤廃後、
賃金水準での調整余地が小さくなり、
「20時間未満に抑える」か
「加入前提で設計する」か二極化しやすくなります。
むやみに20時間未満へシフトを削ると、
人員不足・離職増などのリスクもありますので、
業務量と採用難易度を踏まえて検討することになります。
(3) 任意特定適用事業所を選択するか
基準人数(51人等)に達していない事業所でも、
労使合意により
任意特定適用事業所として適用拡大を前倒しすることが可能です。
従業員の福利厚生や採用競争力の向上を重視するのであれば、
任意適用を検討することも、
場合によっては価値があります。