第5話 「近づいた分だけ、怖くなる」
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占い
朝。
教室に入る前から、分かっていた。
(今日、やばい)
理由は単純。
昨日の距離。
あれを経験してしまったせいで、
普通に接する自信がなかった。
(無理だろ)
ドアを開ける。
澪がいる。
それだけで、
一気に意識が持っていかれる。
(見るな)
そう思うほど、見てしまう。
澪は、普通に席についていた。
いつも通り。
でも。
(…普通にいられるの?)
こっちだけがおかしいのか。
昨日のこと、
気にしてるのは自分だけなのか。
その考えが、
少しだけ焦りに変わる。
席に座る。
距離、近い。
(近いって)
昨日より意識してる分、
余計に近く感じる。
授業が始まる。
でも、ほとんど頭に入ってこない。
視界の端に、澪。
ペンを持つ手。
髪が揺れる動き。
全部、気になる。
(やめろって)
自分で止めようとしても、止まらない。
昼休み。
「ねえ」
来た。
反射的に体が固まる。
「これ、教えて」
昨日と同じ流れ。
でも。
(無理)
距離を詰められる前に、
一歩引いた。
澪が、少しだけ止まる。
「…何?」
不思議そうな顔。
「いや、別に」
目を合わせない。
明らかに不自然。
(やばいって)
自分でも分かる。
空気、変わった。
澪が少しだけ近づいてくる。
でも、また一歩下がる。
「…避けてる?」
その一言で、心臓が跳ねる。
「避けてない」
即答。
でも、声が固い。
澪は少しだけ黙る。
その沈黙が、重い。
(終わった)
「…じゃあ、なんで?」
真っ直ぐな目。
逃げられない。
(言えるわけないだろ)
「なんでもないって」
視線を逸らす。
その瞬間。
澪が、小さく息を吐いた。
「…そっか」
それだけ。
それだけなのに。
胸が、強く痛む。
(違うだろ)
違うって分かってるのに、
止められない。
近づいたら。
(バレる)
全部、バレる。
好きってことも。
動揺してることも。
だから、逃げるしかない。
でも。
逃げた分だけ。
距離が、変わる。
さっきまであった近さが、
一気に遠くなる。
(やばい)
このままじゃ。
戻れなくなる。
でも。
どうしたらいいか分からない。
澪は、それ以上何も言わなかった。
普通に、他の人と話し始める。
その姿を見て。
(…無理だろ)
胸の奥が、
締め付けられる。
近づいた分だけ、怖くなる。
でも、離れたら。
もっと苦しい。
(なんだよこれ)
どうしていいか分からないまま、
時間だけが過ぎていく。
このままじゃ、終わる。
でも。
止められない。
もう、完全に。
引き返せないところまで来ていた。
続く。