第4話 「近いって、それだけでズルい」
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昼休み。
いつもより少しだけ、教室が静かだった。
何人かは外に行って、
残ってるのは半分くらい。
(…なんでこんな落ち着かないんだ)
理由は分かってる。
澪が、近くにいるからだ。
昨日からずっと、頭の中が整理できてない。
(好き、って…)
認めた瞬間から、
全部が変わった気がする。
視線の意味も。
距離の感じ方も。
「ねえ」
声。
一瞬で、心臓が跳ねる。
振り向くと、澪。
「これ、どこ?」
プリントを持ってる。
(またかよ)
でも。
嬉しいと思ってる自分がいる。
「…ここ」
机を指差す。
澪が、そのまま近づいてくる。
近い。
昨日より、明らかに近い。
(ちょっと待て)
距離、こんなに詰める?
澪は気にした様子もなく、
そのまま覗き込んでくる。
髪が、少しだけ揺れた。
ふわっと、いい匂いがする。
(無理だろ)
一気に体温が上がる。
「ここ、こうじゃない?」
澪の指が、紙の上をなぞる。
その指。
距離。
全部、近い。
(やばいって)
「…あ、そうかも」
声が少し裏返る。
澪がこっちを見る。
一瞬、目が合う。
近い距離で。
逸らせない。
「…顔、赤いけど」
終わった。
「いや、別に」
即否定。
でも絶対バレてる。
「ふーん」
澪が、少しだけ笑った。
(今、笑ったよな)
昨日とは違う。
明らかに、こっちを見てる笑い方。
「暑いんじゃない?」
わざとらしく言ってくる。
絶対分かってる。
「…そうかも」
逃げるしかない。
でも。
「じゃあさ」
澪が、少しだけ体を寄せてきた。
さらに近い。
(ちょっと待て待て待て)
「これ、教えて」
ノートを差し出してくる。
完全に距離バグってる。
肩、触れてる。
(終わるって)
心臓の音がうるさい。
絶対聞こえてるレベル。
「…ここは」
必死に説明する。
でも内容なんてほぼ頭に入ってない。
全部、意識がそっちにいってる。
距離。
体温。
呼吸。
(なんでこんな近いの平気なんだよ)
澪は普通に聞いてる。
いや、普通じゃない。
時々、ちらっとこっちを見る。
そのたびに、
心臓が跳ねる。
「ありがと」
少しだけ離れる。
その瞬間。
(…離れた)
なぜか、少しだけ寂しい。
(何考えてんだよ)
自分で自分に引く。
でも。
さっきの距離。
さっきの視線。
全部、頭から離れない。
「ねえ」
また声。
振り向く。
「さっきのさ」
澪が、少しだけ笑ってる。
「ほんとに暑いだけ?」
からかうような目。
完全に遊ばれてる。
「…うるさい」
それしか言えなかった。
澪が小さく笑う。
その笑顔で、また全部持っていかれる。
(無理だろこれ)
距離が近いだけで。
こんなに壊されるなんて。
知らなかった。
でも。
もう戻れない。
この距離を知ったら。
普通には、戻れない。
続く。