さっきの「どうしようかな」が、まだ頭の中にある。
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コラム
夜風が、少しだけ冷たい。
四人の足音が、またゆっくりと動き出す。
誰も、さっきの言葉を拾わない。
聞こえていないわけじゃない。
ちゃんと、胸のどこかに残っている。
凪は、陽菜の隣を歩く。
さっきの「どうしようかな」が、まだ頭の中にある。
軽く言ったようで。
軽くなかった。
凪は、少しだけ迷ってから声をかける。
「……陽菜」
陽菜が、ちらっと横を見る。
「なに?」
いつもの調子。
でも、少しだけやわらかい。
凪は、少しだけ言葉を探す。
「さっきのさ」
間。
「どうしようかなってやつ」
陽菜が、ふっと笑う。
「あー、あれ?」
軽く流すように。
でも、完全にはごまかさない。
「なんとなく言っただけだよ」
そう言って、少しだけ前を見る。
でも、その目は、少し遠い。
凪は、それ以上踏み込まない。
今は、まだその距離。
その代わりに。
「そっか」
それだけ返す。
それで、十分だった。
その少し後ろ。
悠真と蓮が、また並んでいる。
さっきより、自然な距離。
悠真が、ぽつりと。
「……難しいな」
小さくつぶやく。
蓮が、少しだけ笑う。
「楽なほうが珍しいよ」
その言い方、
どこか達観している。
悠真が、少しだけ空を見る。
「でも、逃げたくない」
短く、強い言葉。
蓮も、うなずく。
「うん」
四人の歩幅が、少しずつ揃っていく。
道が、分かれる場所。
ここで、それぞれの帰り道になる。
自然と、足が止まる。
誰も、すぐには別れない。
そのとき、陽菜が、ふっと笑う。
「じゃあさ」
軽く手を振る。
「また明日」
シンプルな言葉。
そんな言葉にも、
今の四人には、ちゃんと意味がある。
凪が、うなずく。
「……うん、また明日」
悠真も、少しだけ笑う。
「ちゃんと来いよ」
陽菜が、すぐに返す。
「そっちこそ」
そのやりとりに、蓮が少し笑う。
「じゃあ、また」
短く、でも、やわらかく。
四人が、それぞれ違う方向に歩き出す。
でも、もう、バラバラじゃない。
つながったままの別れ。
凪は、少しだけ振り返る。
三人の背中。
それぞれ違う方向へ。
明日は、また、
きっと交わえるはず。
その夜。
凪は、自分の部屋で
今日のことを、思い出す。
言葉。
表情。
空気。
全部。
簡単じゃない。
でも、ちゃんと進んでいる。
凪は、ゆっくり目を閉じる。
(わたしは、どうしたいんだろう)
誰かのためじゃなくて。
自分の気持ち。
その答えを、ちゃんと探したい。
そして、
陽菜も、ひとり空を見ていた。
さっきの言葉。
「わたしは、どうしようかな」
軽く言ったはずなのに。
胸に、残っている。
陽菜は、小さく笑う。
「……ほんと、どうしよ」
その声は、少しだけ優しかった。
迷っている。
でも、逃げてはいない。
四人の夜が、それぞれに深くなっていく。
そして、
それぞれの“明日”へ、つながっていく。