そのやさしさが、少しだけ苦しかった。

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コラム
夜の空気は、思っていたより静かだった。

さっきまで残っていた夕焼けの色は、
もうほとんど消えている。

街灯の下。
悠真は、少しだけ立ち止まっていた。

ポケットの中のスマホ。
さっきのやりとりが、まだ残っている。

「……ゆうまのおばかさん」

小さく、息を吐く。

(ほんとだよな)

誰にも聞こえない声で、つぶやく。

歩き出す。

でも。
さっきとは、少しだけ違う。

前に進んでいる感じがした。

――その頃。

凪は、もう家の近くまで来ていた。

同じ帰り道。

でも。
今日は、少しだけ長く感じる。

歩くたびに、思い出してしまう。
「なんかあった?」

あの声。
やさしかった。

でも。
そのやさしさが、少しだけ苦しかった。
(どうして、そんなふうに聞くの)

心の中で、小さくつぶやく。
(気づいてるくせに)

歩くスピードが、少しだけ落ちる。

家の前の角。
いつもなら、そのまま曲がる。

でも。
今日は、足が止まる。

振り返る。
誰もいない。

当然なのに。

少しだけ、胸がきゅっとなる。
(来るわけ、ないよね)

わかってる。
わかってるのに。

ほんの少しだけ、
期待してしまった自分に気づく。

凪は、目を伏せる。

そのとき。
遠くで、足音がした。

凪は顔を上げる。

夜の中。
街灯の明かりの向こう。

誰かが、こっちに向かって歩いてくる。

心臓が、少しだけ速くなる。

でも。
その姿がはっきり見えた瞬間。

凪は、少しだけ安心して、
少しだけ寂しくなった。

「……あれ?」

聞き慣れた声。
クラスメイトの男子だった。

柔らかい雰囲気の。

いつも、無理に話しかけてこないタイプ。

「凪、だよね?」

凪は、小さくうなずく。

「うん。」

その男子は、少しだけ笑った。
「こんな時間に珍しいね。」

「……ちょっと、遅くなっちゃって。」

自然に会話が続く。
気を使わなくていい空気。

凪は、自分でも気づかないうちに、
少しだけ肩の力が抜けていた。

男子は、凪の顔をちらっと見る。

それから、やさしく言った。
「……なんかあった?」

さっきと同じ言葉。

でも。
感じ方が、まったく違った。

凪は、一瞬だけ戸惑う。

でも。
さっきみたいに、すぐに笑えなかった。

少しだけ間があく。

夜の静けさ。

その男子は、急かさない。

ただ、待っている。

凪は、小さく息を吐く。

「……ちょっとだけ。」
ぽつりと、こぼれる。

男子は、うなずくだけ。

それ以上、聞かない。

その距離が、心地よかった。

並んで歩く。

さっきまでとは違う帰り道。

同じ道なのに。
空気が、やわらかい。

凪は思う。

(なんだろう)
さっきまで、苦しかったのに。

今は、少しだけ楽だった。

何も解決していないのに。

ただ。
一緒に歩いているだけで。

余計なことを、考えなくていい。

凪は、少しだけ笑う。

その笑顔は。
さっきより、ほんの少しだけ自然だった。

夜の道を、二人で歩く。

静かに。
ゆっくりと。

そして。
別の場所で。

悠真は、まだ歩いていた。

同じ夜の中で。
違う気持ちのまま。

でも。
確実に、何かが動き始めていた。
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