うまく言えない。でも、「……楽。」
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コラム
夜の道は、静かだった。
街灯の光が、やわらかく足元を照らしている。
二人で歩く帰り道。
さっきまでの空気が、まだ少しだけ残っている。
凪は、ふと横を見る。
隣にいる男子。
見たことはある。
でも、
ちゃんと話したことは、なかった。
少しだけ迷って、口を開く。
「……顔は、見るけど」
少し間。
「ちゃんと話すの、初めてだよね。」
男子は、やわらかくうなずく。
「うん。」
それだけで、
余計なことは言わない。
その感じが、心地いい。
凪は、少しだけ考える。
「名前……」
少し視線を上げる。
「たしか、蓮くん……だったよね。」
「うん。」
「合ってる。」
凪は、小さく息をつく。
「よかった。」
並んで歩く。
夜の空気。
さっきまでと同じ道なのに、少し違う。
蓮が、静かに言う。
「……なにかあった?」
やさしい声。
凪は、少しだけ間をおく。
「……別に、なにもないよ。」
小さく笑う。
でも、
その笑顔は、少しだけ無理をしている。
蓮は、少しだけ首をかしげる。
「……なんで?」
凪が、少し驚いたように見る。
蓮は、少しだけ視線を落とす。
それから、ゆっくり言う。
「なんか」
少し間。
「無理してること、あるんじゃない?」
凪は、言葉を失う。
胸の奥を、やさしく触れられた感じ。
否定しようとして。
でも、
うまく言葉が出てこない。
少しだけ沈黙。
夜の静けさ。
蓮は、急かさない。
ただ、待っている。
凪は、小さく息を吐く。
「……ちょっとだけ。」
ぽつりと、こぼれる。
さっきよりも、少しだけ本音に近い声。
蓮は、うなずくだけ。
それ以上、聞かない。
その距離が、やさしかった。
並んで歩く。
同じ帰り道。
でも、
空気が、少し違う。
凪は思う。
(なんだろう)
さっきまで、あんなに苦しかったのに。
今は、少しだけ楽だった。
何も解決していないのに。
ただ、
一緒に歩いているだけで。
余計なことを考えなくていい。
凪は、少しだけ笑う。
「……ありがとう。」
思わず、言葉が出る。
蓮が少し驚く。
「え?」
凪は、少しだけ困ったように笑う。
「なんか……」
言葉を探す。
でも。
「……楽。」
その一言が、こぼれる。
蓮は、小さく笑った。
「そっか。」
それだけ。
それ以上、何も言わない。
そのやりとりが、自然だった。
風が、静かに吹く。
夜の空気。
さっきより、少しだけやわらかい。
凪は思う。
(こういうのも……いいのかも)
そのとき。
ふと、別の顔が浮かぶ。
悠真。
夕焼けの帰り道。
あの距離。
胸の奥が、少しだけ揺れる。
でも、
その揺れは、さっきよりもやさしかった。
凪は、前を向く。
隣には、蓮がいる。
違う形のやさしさ。
二人で、静かに歩いていく。
ゆっくりと。
夜の中へ。
そして、
同じ夜のどこかで。
悠真は、まだ歩いていた。
違う場所で。
違う気持ちのまま。
でも、
確実に、何かが動き始めていた。