ちゃんと見ろってことかよ……

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コラム
夜の道は、少しだけ明るく感じた。
街灯の光が、やわらかく続いている。

二人の足音が、静かに重なる。

凪は、少しだけ顔を上げていた。
さっきまでとは違う視線。

でも、まだ、どこかで迷っている。

蓮が、ふと歩く速度を少しだけゆるめる。

凪の歩幅に、自然に合わせる。

そのさりげなさに、凪は気づく。

何も言わないのに。
ちゃんと見てくれている。

そのことが、少しだけ嬉しい。

「……さ。」
凪が、小さく声を出す。

蓮が、少しだけ顔を向ける。
「うん?」

凪は、少し迷う。
でも、今なら、言える気がした。

「さっきの……」
言葉を探す。

「ズレてるっていうの。」
少しだけ視線を落とす。
「なんか、わかる気がする。」

蓮は、少しだけ笑う。
「そっか。」

それだけ。
余計なことは言わない。

その受け止め方が、やさしい。

凪は、続ける。
「ちゃんとしなきゃって思うほど」

少し間。

「うまくいかなくなる感じ。」
今まで、はっきり言えなかったもの。

蓮は、ゆっくりうなずく。
「あるよね。」

短い言葉。
でも、ちゃんと届く。

凪は、少しだけ安心する。

そのとき、ふと、胸の奥に浮かぶもの。

悠真。

あの帰り道。
あの言葉。
「なんかあった?」

同じ言葉だった。

でも、違った。

何が違ったのか。
少しだけ考える。

(あ……)

気づいた。
悠真は、優しかった。

でも、
“どうすればいいか”までは、
見ていなかった。

蓮は,
理由はわからないのに
“今の自分”を見てくれていた。

その違いが、少しだけわかる。

凪は、立ち止まりそうになる。

でも、歩きながら、そっとつぶやく。
「……ちゃんと見てくれる人って」

少しだけ、声が小さくなる。
「違うんだね。」

蓮は、少しだけ驚いた顔をする。

でも、すぐに、やわらかく笑う。

「たまたまだよ。」
軽く言う。
重くしない。

その距離が、やさしい。

凪は、少しだけ笑う。

その笑顔は、
今までで一番、自然だった。

夜の道。

静かな時間。

でも、その奥で、
少しずつ、バランスが変わり始めている。

気づかないうちに。

ほんの少しずつ。

そして、
別の場所。

悠真は、足を止めていた。

信号の前。

赤い光。

ふと、さっきの言葉を思い出す。
「……ゆうまのおばかさん」

陽菜の声。
頭の中で、何度も響く。

(ちゃんと見ろってことかよ……)

小さく、息を吐く。

目を閉じる。

凪の顔が浮かぶ。

笑っていた。

でも、どこか遠かった。

(……あれ)

胸の奥に、違和感が広がる。

今まで感じなかった感覚。

(俺……)

少しだけ、眉を寄せる。

(ちゃんと見てなかったのか)

信号が変わる。

青い光。

でも、すぐには動けない。

胸の奥で、何かが引っかかっている。

焦りにも似た感覚。

はじめて、はっきり思う。
(このままじゃ、だめだ)

夜の風が、少し強く吹く。

遠くで、誰かの笑い声。

同じ夜。
違う場所。

でも、
確実に、何かが動き始めていた。
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