その奥で、 まだ名前のついていない感情が、少しずつ形になり始めていた。
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コラム
夜の空気は、少しだけ冷えていた。
街灯の下を、二人で歩く。
さっきよりも、距離はほんの少しだけ近い。
でも、
触れるほどではない
そのくらいの距離。
凪は、足元を見ながら歩いていた。
さっきより、心は落ち着いている。
でも、
どこかで、まだ揺れている。
蓮が、ふと空を見上げる。
「今日は、ちょっと寒いね。」
凪も、つられて上を見る。
夜の空。
星は、少しだけ見えていた。
「……うん。」
小さく答える。
その声は、さっきよりやわらかい。
少しの間。
風が、静かに通り過ぎる。
そのとき、
凪が、ぽつりと言う。
「さっきさ。」
蓮が、少しだけ顔を向ける。
「うん?」
凪は、少しだけ迷う。
言っていいのか。
今なら、少しだけ言えそうだった。
「……なんで、わかったの?」
蓮は、一瞬だけ考える。
それから、軽く肩をすくめる。
「なんとなく。」
それだけ。
その“なんとなく”が、嘘じゃないことがわかる。
「……顔?」
凪が聞く。
蓮は、少しだけ首を振る。
「顔っていうより」
少しの間。
「空気かな。」
凪は、少しだけ目を見開く。
「空気……?」
自分では気づかなかったもの。
でも、
言われてみれば、確かにそこにあった気がする。
蓮は、続ける。
「無理してる人ってさ」
少しゆっくりとした声で。
「なんか、少しだけズレてるんだよね。」
凪は、言葉を失う。
ズレてる。
その言葉が、静かに胸に落ちる。
「……ズレてるんだ。・・・」
小さく、つぶやく。
蓮は、うなずく。
「うん。」
「でも」
少しだけ、やさしく笑う。
「悪いことじゃないよ。」
凪が見る。
「ちゃんと頑張ってるってことだから。」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。
否定されなかった。
むしろ、認められた気がした。
凪は、少しだけ笑う。
「……そっか。」
その笑顔は、
最近にないやわらかさだった。
歩くペースが、少しだけそろう。
自然に。
無理なく。
そのとき、
凪の中で、ふと気づく。
(あれ)
さっきまで、
ずっと考えていたこと。
悠真のこと。
今は、少しだけ遠くにある。
消えたわけじゃない。
でも、少しだけ、手放せている。
凪は、自分でも驚く。
(こんなふうに、なるんだ)
何も変わっていないのに。
ただ、隣に誰かがいるだけで・・・。
気持ちが、少しだけほどける。
夜の道。
静かな時間。
二人の間に流れる、やさしい空気。
でも、その奥で、
まだ名前のついていない感情が、
少しずつ形になり始めていた。
そして、その変化は、
まだ気づいていない誰かの心にも、
これから届いていくことになる。