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サンプル作品『動物園』全文

 今にも雪のちらつきそうな休日、俺と宇井は近くの動物園に来ていた。今朝のニュースではお天気お姉さんが、 「今日は午後から雪が降るでしょう!」 と良い笑顔で言っていた。だから動物園の園内も人はまばらだった。当然だ。真冬のこんな寒い日に、動物園に来るような馬鹿がいるか? 「常々、動物園は冬に行くものだと思うの」  ここにいた。 「何で?」 「だって、夏はニオイが凄いじゃない」 「いや、春か秋か、もっと季節の良い時でも」 「ダメです」 「冬は寒いし」 「ダメです」 「動物たちだってさぁ」  寒すぎて、さっきから外に出てこないのだが。こんな寒空の下、外に出ている動物なんて温泉に浸かっているカピバラか、飼育員さんぐらいしかいない。俺はからっぽの檻を見に来たわけじゃない。しかし幸いなことに、この動物園は建物内からも動物たちの様子が見られるようになっていた。中からならよく見られるだろう。 それから、あっちへこっちへ、宇井の気の向くままに引っ張りまわされた。 「浅木! 見て見て、あの猿! 鼻長い! 天狗だ!」 「ホワイトタイガー! 本当に真っ白なんだ! ガオー!」 「ヒクイドリ? 火食べるの?」 「アイアイって、何か顔怖いよねぇ。ゲームのダンジョンかどこかのモンスターっぽい」  楽しそうで何よりだけど一つ思うのは、 「何でちょっとマイナーな動物ばっかり見てるの?」 「え、まさか、浅木って王道のライオンとかゾウとかキリンとか、そういうのが見たい感じの人? うわぁ、引くわぁ……」 「別に嫌いではないけど、そんなこと一言も言ってないだろ」  わざとらしくしかめ面して見せる宇井。それがちょっと腹立たし
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サンプル作品『谷底』全文

 湿気を含んだ重い空気がじとりとまとわりつく。月も星も雲に隠され真っ暗な夜、敷きたての真っ黒なアスファルト。雨と埃のにおいが鼻につく。街灯はチカチカと点滅を繰り返し、ほとんど意味をなさない。  光の点滅が過去の思い出を照らしては消えていく。思い出すのも辛い、とても幸せな過去の思い出。君の笑顔、澄んだ声、下手な料理、歩く速さ、小さな思い出が集まって、真っ黒な塊になって俺を押し潰そうとする。こんなの、ただの過去だ。いつか君と結婚して、子供が出来て、子供達が成長したら二人で穏やかな老後を過ごす、なんて。漠然と思い描いていた幻想だ。  一昨日は眠れなかった。昨日は悪夢を見た。今日は。覚めなければ、そう思わずにはいられない。夢の中では鮮明に蘇る美しい君の姿。頭では、これは夢だと理解していても、傷つき、ぐずぐずとただれた心は、愛しい幻にすがる。 「いつかは、私のことも、その痛みも、忘れてしまうわ」  君は抱きしめる俺からするりと離れ、微かに笑う。戸惑い、何も言えないでいる俺に、 「さようなら、おはよう」  目が覚め、空を見た。月の光が冷たい。まだ夜だった。  俺達は石吐きの一族。体内に宝石を生み出し、吐く。食べた物は全て、体内で宝石に変わる。どういう仕組みになっているのか、俺でも分からない。  俺はダイヤモンド、君はトパーズ。  ほかの石吐きがどうなったかは分からない。きっともうほとんどはいなくなってしまっただろう。石吐きの宝石は人間達に高値で売り買いされる。大きさ、美しさ、硬度、全てにおいて最高水準のそれを目当てに狩人達は俺達を狩る。石を吐こうが吐くまいが俺達を追う。石吐きは寿命の数だけ
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サンプル小説[ジャンル:恋愛](1話完結6千文字)

以前に小説投稿サイトに投降した1話完結の短編小説です。文字数は約6千文字です。 以下サンプル小説になります。興味を持っていただけらご連絡ください。 昨日、失恋をした。  人を好きになったのは初めてだった。  君の最後の言葉が、脳裏に蘇る。  現実と向き合うため、僕は再度手紙を読み返すことにした──  ひと月前、僕は彼女と遭遇する。  風邪をこじらせて肺炎になった妹の見舞いで、僕は大学病院に来ていた。  案内看板を見て妹の病室を探していると、女性の声が耳に届いた。 「どこに行きたいんですか?」  振り返ると優しく微笑む小柄な女の子が立っていた。服装からしてこの病院に入院していることが分かる。自分と歳はあまりかわらないようにみえた。少なくとも、高校生には見えないことからも学年は違っても同じ中学生なのだろうと予想できる。  声音も穏やかで、なんとなく親切な人なのだろうと思った。 「えっと、妹の見舞いに来たんですけど、この病室ってどこにあるんですかね?」  僕は母から渡された病室の番号が書かれたメモを見せた。 「あぁここなら棟が違うんで連絡通路を通って隣の棟に行かないとですね、こっちですよ」  彼女は病室まで案内をしてくれるようだ。  間がもたないので適当な会話を投げ掛けてみた。 「あの、いつも困ってる人を助けてるんですか?」  僕は、彼女が話す前にその瞳が一瞬、こちらの様子をうかがうように動いたことを視界の端で捉えた。 「んーそうですねー。でも私がやってる人助けって自分のためなんで、別に私が優しいとか親切とかそういうことじゃないんですよねー」  どういうことなんだろうか。僕はもう一歩
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【サンプル小説 サイコホラー】硝子越しの金魚

 彼女は硝子越しに見る金魚のようだった。ひらひらとしたその尾鰭を揺らし、優雅に泳ぐ。人の目を惹くその金魚は、一体誰のものなのだろう。  そもそも、金魚は観賞魚だ。見られるためだけに生まれた、人工的な生き物。そうであるならば、やはり、生かすも殺すも、人間の手でなければいけない。  彼女が金魚ならば、人間の僕が……。  僕の可愛い金魚。僕だけの、可愛い、美しい、金魚。硝子越しではなく、いつか、僕の手の中で死ぬまでずっと一緒にいてやろう。  こつん、こつん……と、爪で透明な硝子を叩く。 「おーい、行って来るよ」  僕はぼそっと声を掛けた。しかし相手は何も言わない。それはそうだろう。相手は金魚なのだから。  玄関先で靴を履き、鞄を持って扉を開ける。外の日差しが目に入り、少し痛みを感じた。 「今日も暑いな」などと呟いて、鍵を閉める。鍵が掛かった音がすると、僕はドアノブを握って本当に開かないか、鍵は閉まったのかと確かめる。  ガチャガチャと耳障りな音がして、ようやく鍵がしっかり掛かっていると確認し、問題ないとわかると僕は胸をほっと撫で下ろして歩き始めた。  今日は得意先をいくつか回らなければならない。時間を無駄に出来ないのだ。  そんなことを思いながら、いつものように近所のコンビニに入り、新聞を一部と弁当を一つ買った。 「ありがとうございましたー」  店員の気の抜けるような声を背に、目の前の横断歩道を渡る。チカチカと信号が点滅しているが、信号が赤に変わるまでには渡り切るだろう。そう思って歩いていると、右側から来た大きなものが僕の体を宙へと投げ、いつもの静かな朝は一変したのだった。  女性の
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