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すべてのブログから「#転生ヒドイン」タグの検索結果

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小説『仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑤』

 早々に大勢は決したが、リリアンは手を緩めなかった。「――私が小さな炎を魔法で操ってカティア様にけしかけ、怯えるカティア様を嘲笑したという件。確かに私はその時間帯に中庭にいました。そして笑顔で魔法を使っていましたから、証人の皆様はきっとその場面を見て誤解されたのだと思います。しかし、その魔法は人を害するためのものではございません」「で、では何のためだというんだ」「ミハイル」 それまで一言も発さなかった王妃が、不意に口を開いた。「その時リリアンが使っていた魔法は、遠眼鏡の法です。彼女はそれを使い、遠く離れた王宮にいる私に学園の様子を見せてくれていたのです」「え……」 顔をより一層青くした息子に、母は小さくため息をついた。「その数ヶ月前、夏季休暇の時です。リリアンを王宮に招いてお茶をした際、彼女は学園での話を数多くしてくれました。どの話も興味深くリリアンが生き生きと日々を過ごしているのが伝わってきて……思わず自分の在学中を思い出して懐かしみました。そんな私の様子をリリアンは覚えていてくれたのです。先代グランバルト公爵が開発した魔法で学園と自分の様子を届けられないかと関係者にかけあい、実現したのがその日時。公式の書類も残っていますし、当日問題がないよう見守っていた宮廷魔術師たちが証言してくれることでしょう。それでも、リリアンに非があると思いますか?」 王妃は己の玉座の上で動じず、我が子に厳しい顔を向ける。眼差しは冷徹だったが、目ざとい者はその瞳の奥に苦渋を見た。「おいたわしや王妃様。立場の制約がありながらも殿下が立派に育つよう尽力されていたのは私にも伝わってますわ。それなのに……」「
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小説『仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件④』

 ミハイルと同様に、リリアンはざわつく群衆をものともせず凛として歩いていく。ただし、ざわめきの内容は少々異なっていた。「おお、リリアン嬢」「やはり信じ難いな……」「まあなんて素敵……」「一体何をなさるんだろう?」「あの自信、きっと勝算がおありだぞ」「見てあの首飾りのダイヤモンド。きっと去年話題になったものだわ、羨ましい」 先が見えない展開に不安は残れど、人々がリリアンに向ける顔はおおむね明るい。その姿の華やかさに断罪と反論の最中ということを忘れ、憧憬の眼差しを向けたり興奮して囁きあう婦人方もいる。その姿は一般的に思い描かれる罪人像とはかけ離れていた。 父譲りの黒い髪は優雅なシニヨンに結い上げられ、ヘアピンについた小さなダイヤモンドたちが夜空の星々のように煌めいている。ピーコックグリーンのドレスは艶やかな最高級のシルクで作られており、まるで柔らかく豊かな光そのものを纏っているようだ。アクセサリーに使われている宝石はダイヤモンドとアメジスト。彼女の菫色の瞳とよく似た輝きを放っている。 国内最大級のダイヤモンドを胸に光らせながら王のもとまでやってきたリリアンは、淑やかにカーテシーを行った。「国王陛下、ならびにお集まりの皆様、ごきげんよう。お騒がせして申し訳ございません」「よい。光の乙女への加害について、其方の言い分を聞こう」 その言葉を聞いたリリアンは王の目をまっすぐ見て言った。「挙げられた罪状、全て身に覚えのないことです。一つずつご説明いたします。まず、光の乙女の私物を取り上げたり壊したりした疑いについて」 そこで初めて、公爵令嬢は婚約者の方を向いた。「証拠として出されたそちらのブ
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件 完

 花が開き麦が芽吹き小鳥が歌う、春の盛りのブルクスタ王国にて。王太子ユースタスと隣国ディタイトの公爵令嬢リリアンの婚礼の儀は、つつがなく厳かに執り行われた。一抹の寂しさを感じていたジルダも、ユースタスと並んで神の祝福を受けるリリアンを晴れやかな気持ちで見守ることが出来た。壮麗な大聖堂で夫婦の誓いを立てる若い二人はとてもお似合いで、後に何度も絵画に描かれることとなった。続く祝宴は三日三晩続き、老いも若きも男も女も平民も貴族も食べ、飲み、歌い、踊り、祝って楽しんだ。誰もが若い二人と両国の明るい未来を確信しながら杯を合わせ、夢のような時間を過ごしたのだった。 式から十日後。ディタイト王国に帰国したジルダは体を休め細々とした用事を済ませてようやく通常の生活に戻った。やることは山積みだ。回顧の法と命名されたあの過去を映し出す魔法のさらなる改良、父の書類仕事の手伝い、領内の視察、自分とリチャードの婚礼についても話し合いが始まっている。それに……。「まずは、留守中『あれ』に動きがなかったか確認しに行きましょう」 ジルダはそう呟き、支度のため動き出した。 万一の事故の際に王城や民を巻き込まないよう、王立魔法研究所は都からかなり離れた山間部に建てられている。グランバルト家は代々魔法の研究や開発が得意な者が多いため生家に立派な研究室を備えているが、大掛かりな実験をする場合はわざわざここまで来て数日滞在することも珍しくなかった。 要件を告げると、係の者がすぐ地下の研究室に案内してくれた。壁も床も天井もむき出しの石で出来た広い部屋は、この季節でも肌寒い。書き物をしたり薬草を煎じていた数人の研究者が、入
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑨

 この世界が戯曲? カティア以外は筋書き通りに動くだけの人形? あまりにも荒唐無稽な話に、流石のジルダも姉の言葉をすぐに飲みこめなかった。招待客たちも、王も王妃も、ミハイルも、グランバルト公爵もリチャードも、皆唖然としてリリアンを見つめている。完璧な証拠を突きつけて着せられかけた濡れ衣を跳ね返した今のリリアンの発言でなければ、誰も到底信じられなかったろう。 ところが、カティアはその問いを聞くや顎を反らしてゲラゲラと笑った。そしてめいっぱい歯を剥き、威嚇なのか笑みなのかよく分からない壮絶な顔をリリアンに向けた。「やっと分かったの? 完璧な優等生のくせに? そうよ、あんたらはただのゲームのNPCよ! 主人公のあたしに尽くすために生まれてきた作り物なんだよ!」 他者への思いやりや尊重の欠片もない、利己的な発言。リリアンは真剣な表情でそれを受け止めた。「えぬぴーしー、というのは人形や役者と同じような意味の言葉かしら。あなたにとってここは自分を中心に回る舞台で、清らかな光の乙女を讃え傅く物語の中なのね?」 ゲラゲラ、ギャハハと開き直った毒婦が笑う。ジルダは拘束魔法に注ぐ魔力を強め、カティアの頭をぐいと押さえ込んだ。「そうよ、身の程がやっと分かった? じゃあ今からでもいいからまともな挙動しなさいよ! あたしは光の乙女カティアなんだから!」 リリアンは深く溜め息を吐き、大きくゆっくりと首を横に振った。「それは出来ないわ。私も、ここに集う他の方々も、『そんなことはしたくない』から」「はあ? まだ自分らの立場を――」「自分の立場を分かっていないのは貴方の方よ。光の乙女が頭を垂れられるのは、代々の
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑧

「な……」 ホールにいた全員が驚愕で固まった。床に叩きつけられた騎士の軽鎧が一部融けている。あの目も眩むような光にはそれなりの威力があるのだ。「陛下、退避を!」「リリアン、ジルダ、下がっていなさい」 場の空気はにわかに張りつめた。パニックを起こした一部の招待客が我先にと出入り口に駆け寄る。護衛たちは王や王妃を庇うべく前に立つ。娘二人を背中に隠すように歩み出たグランバルト公爵が、防御魔法で障壁を創り出す。「うあああああ、イライラする! 馬鹿にしやがって! リリアン!」 カティアは夏の太陽のようにギラギラと白い光を溢れさせ、ダンダンと足音を立てて迫りくる。魔術にも長けた近衛数人が制圧を試みるが、度々噴出する強烈な光の魔力がそれを阻み負傷者が増えていく。「……なんてこと。あんな爆発的な力、初めて見たわ」 グランバルト家の姉妹は、自身も障壁を張りながらジリジリと後ずさった。聖女とは程遠い暴力の塊を目の前に、リリアンの頬を汗が一筋伝う。「ええ。詠唱も手順もあったものじゃありませんわ。豊富に持っている魔力が憤怒の感情と共に爆発して無秩序に迸っている。まるで火山の爆発ね」 ジルダも同様に下がりながら、少しでもカティアから遠ざけようとリリアンを後ろに庇おうする。あの女の標的は間違いなくお姉様だ、何としてでも守らなくては。数ある魔法の中から無力化に最も適したものを探すべく、頭脳を最大限回転させる。 しかし、計算が狂うのはいつも決まって全く予期せぬ時で。「キャッ!」 正装用のヒールが高い靴は、このように緊迫した状況で履くことを想定していなかった。バランスを崩したリリアンが床に倒れ、魔法の盾が揺らい
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑦

 貴族諸侯たちは皆、大なり小なり腹に一物抱えつつも上流階級の品性を身につけ重んじている。だからこれほどまでに酷いものを見せられても、怒号を飛ばすことはなかった。「イヤイヤイヤッ! そんなはずないの! あいつが酷いこと言ったの!!」 髪をかきむしり地団駄を踏み最早すっかり馬脚を露したカティアが代わりに浴びたのは、冷たい軽蔑だった。よくこれでリリアン嬢を断罪しようと企めたものだ。観衆はもう一言も発さず、凍てついた空気を揺さぶるのは光の乙女様の金切り声だけである。 リチャードが右手を横薙ぎにするようにすっと動かし、鏡に映る光景が変わった。ミハイルが若い侍従に何か話している。「……最近のリリアンの態度は目に余る。将来王として国を動かす僕を差し置いて口出しばかり、まるで自分こそが国を動かすんだと言わんばかりだ。彼女は国母にふさわしくないし、いずれ王家と国を揺るがす。君、憂いの芽を摘むのを手伝ってくれ」 侍従は何か言いたげにしたが結局逆らうことはなく、多額の褒美と引き換えに見てもいないことを証言すると約束してしまった。リリアンがカティアを詰り中傷し、手まで上げたと。「ひっ……」 ミハイルがよろける。無理もないだろう。王太子が気に入らない婚約者を積極的に陥れようとしたこと、そのために人を買収し虚偽の証言をさせたことが明るみに出たのだから。当然、人々の冷ややかな視線はミハイルにも向くこととなった。「ふざけんなよっ! こんなのストーリーになかったじゃん! こんなクソイベント、どうやって……」 鏡の中の景色はどんどん移り変わり、様々なものを暴いていく。ある貴族の嫡男の腕に抱かれ甘えたその日の夜、別
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小説『仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件①』

 いよいよ春が近い。王家に次ぐ権勢を誇るグランバルト公爵家のコンサバトリーには陽光が満ち、うらうらと暖かかった。「お姉様、やはり私許しがたく思ってますわ!」 そんな場に似つかわしくない大きな声を上げたのは、グランバルト家次女ジルダ。切れ長の目はキッと吊り上がり、カップを持つ指には力が入って細かく震えている。目の前のテーブルに並んだ好物たちに目もくれず、彼女は堪えてきた憤懣を迸らせた。「近頃のミハイル殿下の態度は目に余ります! いえ、前から思うところはございましたが、お茶会やお出かけの誘いに返事もしないなんて失礼にも程がありますわ! お姉様は殿下の婚約者だというのに……。いくら王太子でも、いえ王太子だからこそあんな不実は許されません!」 高潔で意志が強い――強すぎて他者との衝突を招くのがまだ青い点だが――可愛い妹の憤りに、姉であるリリアンは苦笑した。「声を抑えなさいジルダ、うちの中とはいえ誰が聞いているか分からないわ。むざむざ自分の立場を危うくしてはいけません」 ジルダはハッとして口を噤んだ。同時にあることに気づき、エメラルドのような目を見開く。「お姉様、殿下が不誠実という点を否定なさらないの……?」 ジルダにとってリリアンは、いかなる時も理性的かつ優しい理想の淑女だ。ミハイルにどれほどそっけない態度をとられても理解しようと努める姿の、なんと健気だったことか。『互いの両親が決めた結婚だもの、すぐには受け入れられなくても仕方ないわ』と微笑み愚痴のひとつもこぼさなかったお姉様が、殿下を庇わないなんて。 リリアンは自分の紅茶にスプーン一杯砂糖を加え、軽くかき回す。そしてカップを手に取り
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑩

 グランバルト公爵令嬢への冤罪事件と光の乙女の暴走からおよそ一年後。ディタイト王国は春を迎え、グランバルト公爵家のコンサバトリーには温かい光が満ちていた。「……お姉様、やはり私少しだけ寂しいです」 そんな場に似つかわしくない沈んだ声を上げたのは、グランバルト家次女ジルダ。切れ長の目を伏せ、手にしたカップの赤い水面をただぼんやりと見つめている。可愛い妹のいじらしい様子に、姉であるリリアンは優しく微笑んだ。「寂しがってくれて嬉しいわ。せいせいします、早く行ってくださいなんて言われたらどうしようかと」「そんなわけないでしょう。お姉様ってば意地悪ね」 なんとか気持ちの整理をつけようとジルダは紅茶を飲んだが、味はよく分からなかった。明後日、リリアンは隣国ブルクスタに向けて発つ。王太子ユースタスと結婚するために。 あのめちゃくちゃな夜の後、あまりにも色々なことが起きた。 まず裁判が開かれ、あのふざけた断罪劇について正式に決着がついた。誰もが予想した通り、結果はリリアン側の全面勝利。ミハイルが糾弾したカティアへの加害は一つ残らず事実無根の言いがかりだったと認められ、逆に二人の狼藉が数多白日の下に引きずり出されることとなった。 当然、ミハイルは王太子の座から降ろされた。代わりに五歳年下の第二王子アルスが立太子し、アルスの教育などに関わっていたアストリー伯爵家は少々得をしたという。ミハイルは辺境の開拓地に送られ、そこを統治し発展させて生み出した富を一生かけてグランバルト家への賠償金に充てるのではと囁かれていた。 が、意外にもあんな王子に外国からの縁談が舞い込んだ。相手は海洋国家シャサラードの女王
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仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件⑥

「して、過去を映し出す魔法とはどのようなものか」 挨拶を交わしてすぐ、王は尋ねてきた。ジルダは答える。「我が祖父が開発した遠眼鏡の法を応用したものでございます。鏡や水面に離れた場所の景色や音を映すことが出来るこの魔法をさらに便利なものにすべく、グランバルト家は三十年間研究を続けてまいりました。私の婚約者であるアストリー伯爵令息も協力してくださり、半年前に『過去の出来事を映し出す』ことに成功したのです」 これまでに並べた証拠たちだけでもリリアンの潔白を国中に信じさせるには十分だったろう。だがリリアンと父であるグランバルト公爵は、ダメ押しと宣伝を兼ねてこの画期的な魔法を披露することにしたのだ。開発者のジルダとしてはもっと色々な機能を実現させてから発表したかったのだが、濡れ衣を着せられそうな姉の役に立つならそんな欲望に意味などない。 さっきまで部屋の壁にかけられてこのホールの状況を映していた大きな鏡は、グランバルト家の従者たちによって運び込まれ魔法で高く持ち上げられていた。数百人の人々が注目するそれを見上げながら、リチャードが続きを引き受ける。「実演してみましょう。今から約一年前に行われた王立学園の卒業式の様子をこの鏡に映してみせます」 そして精神を集中させ詠唱を始める。リチャードの魔力が鏡に集まり、鏡面が青い光で満たされていく。若き秀才が詠唱を終え鏡に手をかざした刹那、光が弾け鏡の中の光景が変わった。「おお……!」 会場がどよめく。紛れもなく、一年前に開かれた卒業式の模様が映し出されていた。あの日降っていた季節外れの雪がちらちらと窓の外で舞っているし、送辞を述べているのはその後亡く
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小説『仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件③』

「まあ婚約破棄ですって。随分と強いお言葉を使いますのね」 ふわりと扇子を扇ぎ、ジルダは呟いた。声に冷ややかな軽蔑が乗るのをもう抑える気にもなれなかった。 いずれ王になれば国の隅々まで気にかけ様々な身分や立場の民たちを慮ることが求められるというのに、ミハイルはこのホールにいる人々のことすら見えていない。お集まりの諸侯が黙って眉をひそめているのは、カティアを憐れんだりリリアンへの怒りを押し殺しているからではない。告発の内容や証拠の正当性をうっすらと疑う不信感ゆえだ。 光の乙女が崇敬され丁重に扱われるのは、魔を祓い心を照らす光の力と清らかな慈愛の心で国を守り人々を助けてきたからである。勉強を嫌い礼節を欠き複数の男を連れて遊んでいる者がその名を振りかざしても、何にもならない。いずれ成長して落ち着けば立派な聖人になるだろうという期待から、在学中はある程度お目こぼしいただけていたようだが……その期待も萎れて久しいようだ。 対するリリアンは、勉強熱心で努力家と幼少期から評判の才女。特に言語学と地理歴史に優れ、留学や外遊で訪れた他国の王族と話して心を掴んだエピソードには事欠かない。この若さで教育や文化振興にも尽力しており、昨年秋にグランバルト公爵領に建てられた大劇場には立地の選定から携わっている。カティアが元いた孤児院で読み書きの出前授業をした際、一度も帰ってこないカティアの近況を尋ねられ返答に困ったというのも有名な話だ。 二人の信用には天と地ほどの差がある。だからリリアンが影でカティアをいじめていたなどと言われても、なかなか信じられないのだ。加えて王宮への出入りも多い上位貴族らは王太子が婚約
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小説『仮にこれが戯曲としても―― ディタイト王国での冤罪事件②』

 宮廷楽団の演奏と貴族たちの談笑が混じり合い、巨大なホールは心地よいざわめきで満ちている。純粋に談笑する者もいればこの場でも抜け目なく相手の腹を探る者もおり、過ごし方は実に様々。とにかく今宵王城に招かれた客は全員、思い思いの方法で主役の登場を大人しく待っていた。「ミハイル王太子殿下のおなり!」 しかしその主役である王太子ミハイルが現れた途端、会場は驚きと困惑で満ちた。王族の御前のため大声で騒ぐような者はいなかったが、数百人が一斉にどういうことかと呟けばそれなりの大きさの音の渦になる。ざわつく人々の前をミハイルは一人で堂々と歩いていった。金の御髪や空色の瞳が眩く非常に立派な姿だ。だが、当然一緒だと思われていた婚約者リリアンの姿は見当たらない。 今宵の宴は王太子ミハイルの成人を祝いグランバルト公爵令嬢リリアンとの婚礼について正式に発表する場のはずだ。だから王太子入場の折、誰もがミハイルとリリアンが共に入場すると信じて疑わなかった。それが王太子一人だけ現れるなんて、何かよほどのことがあったとしか思えない。招待客たちが戸惑う中一段高い王太子の座までたどり着いたミハイルは、眼下の人々をぐるりと見回し口を開いた。「静粛に! ……皆が戸惑うのはもっともだ。何故婚約者のリリアンがいないのか、と。残念ながらこの場で僕とリリアンが並ぶことはない。彼女は、光の乙女カティアを虐げ排除しようと目論んだのだ!」 衝撃的な発言により会場は一層ざわついた。リリアン嬢の知性や品性の評判は五十年に一人の才女と謳われるほど高く、にわかには信じがたい告発である。それは国王も同じだったらしく、騒ぎを破る重々しい声で息子
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