絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのブログから「#沈黙が心地いい」タグの検索結果

3 件中 1 - 3 件表示
カバー画像

風の音が聞こえるから。

凪はそんな予感を、静かに胸の中で感じていた。「じゃあ、行こうか。」陽菜が一歩踏み出す。「うん。」二人は並んで駅のホームへ向かった。休日のホームは、平日とは少し違う。急ぎ足の人は少なくて、どこかゆっくりと時間が流れている。電車がホームへ滑り込んできた。「座れるかな。」陽菜が小さく言う。「空いてるといいね。」ドアが開き、二人は車内へ入った。窓際に二人並んで座れる席が空いている。「よかった。」陽菜が笑う。電車が静かに走り始めた。窓の外では、街並みが少しずつ流れていく。商店街。住宅街。小さな公園。やがて、高い建物が少しずつ減り、緑が増えてきた。「景色、変わってきたね。」凪が窓の外を見つめる。「もう少し行くと田んぼが見えてくるよ。」陽菜はうれしそうに教えてくれる。まるで、自分の大切な場所を紹介するみたいに。その声を聞いているだけで、凪まで楽しくなってくる。「陽菜って。」「ん?」「こういう場所、好きなんだね。」「うん。」陽菜は窓の外へ目を向けた。「風の音が聞こえるから。」「風の音?」凪も耳を澄ませてみる。もちろん、電車の中だから聞こえない。でも。陽菜は続ける。「畑ってね。」「葉っぱが揺れる音とか。」「鳥の声とか。」「虫の声とか。」「静かなんだけど、ちゃんと音があるの。」凪はその言葉を、ゆっくり心の中で繰り返した。静かなんだけど、ちゃんと音がある。その表現が、なんだか陽菜らしいと思った。「だから私は。」陽菜が少し笑う。「黙っていても退屈しないんだ。」その一言に、凪は胸の奥が小さく震える。思い返せば。教室でも。帰り道でも。陽菜との沈黙は、不思議なくらい心地よかった。(そうか。)この人は、沈黙を
0
カバー画像

明日って、お弁当ある?

その願いが、恋という名前を持つのは、もう少しだけ先のことだった。坂道を下りきると、住宅街へ続く小さな交差点が見えてきた。ここから先は、二人の帰り道が少しだけ分かれる。いつもなら、何気なく「じゃあね」と手を振るだけだった。でも今日は。「凪。」陽菜が立ち止まる。「ん?」「明日って、お弁当ある?」凪は少し考えてから笑った。「あるよ。」「よかった。」陽菜はほっとしたように笑う。「じゃあ、また交換しよう。」その何気ない約束に、凪の胸がふわっと温かくなる。「うん。」それだけの約束。なのに、明日が少し楽しみになった。二人は交差点まで歩く。信号は赤。並んで立ちながら、夕暮れの街を眺める。子どもたちの笑い声。自転車が通り過ぎる音。遠くで犬が鳴いている。どれも昨日と同じ景色なのに、今日は違って見えた。「ねえ、陽菜。」「ん?」「……ありがとう。」陽菜は少し首をかしげる。「何が?」「今日も。」凪は少し照れくさそうに笑う。「一緒にいてくれて。」陽菜は目を丸くしたあと、小さく笑った。「こちらこそ。」その返事は、とても自然だった。「凪といるとね。」少しだけ間があく。「落ち着く。」その一言に、凪の心臓が小さく跳ねた。不思議と苦しくはない。驚いたはずなのに、どこか安心している自分がいた。青信号に変わる。「じゃあ、また明日。」「また明日。」二人はそれぞれ反対の道へ歩き出す。数歩進いたところで、凪は振り返った。陽菜も同じタイミングで振り返っていた。目が合う。どちらからともなく笑う。手は振らない。声もかけない。それでも、その一瞬だけで十分だった。凪は前を向いて歩き出す。(また明日。)その言葉が、今日一番うれしい約束だ
0
カバー画像

言葉にしたら、何かが変わってしまいそうで。

小さな変化に、凪はまだ気づいていなかった。昼休みが終わり、午後の授業が始まる。いつもなら長く感じる時間が、不思議と今日は早く過ぎていく。窓の外では、初夏の風が校庭の木々を揺らしていた。放課後。「終わったぁ。」誰かの声と同時に、教室が一気に賑やかになる。凪は教科書を鞄へしまいながら、ふと見た。陽菜も帰る支度をしている。その姿を見ただけで、胸の奥にほっとしたものが広がる。「あ。」二人の視線が重なる。陽菜が小さく笑った。「一緒に帰る?」その一言に、凪の心がふわりと軽くなる。「……うん。」たった二文字なのに、思ったより声が弾んでしまった。教室を出ると、廊下には夕日が長く差し込んでいた。部活動へ向かう生徒たちが、楽しそうに話しながら通り過ぎていく。二人は並んで歩く。急ぐわけでもなく、立ち止まるわけでもなく。歩幅が、自然と揃っていた。「今日は疲れた?」陽菜が尋ねる。「うん。でも……。」凪は少し考える。「今日は朝より元気かも。」「ほんと?」「うん。」理由は言えなかった。言葉にしたら、何かが変わってしまいそうで。「それならよかった。」陽菜はそれだけ言って笑う。その笑顔を見るたびに、胸の奥が少し温かくなる。沈黙が訪れる。少し前までの凪なら、焦って何か話題を探していただろう。天気のこと。宿題のこと。テレビで見たこと。とにかく、この静かな時間を埋めようとしていた。でも今日は違った。風が木の葉を揺らす音。遠くから聞こえる運動部の掛け声。夕日に照らされた二人の影。その全部を感じながら、ただ歩いている。不思議と、何も話さなくても落ち着く。その静けさを破ったのは、陽菜だった。「ねえ、凪。」「ん?」「今、何考
0
3 件中 1 - 3