風の音が聞こえるから。

風の音が聞こえるから。

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コラム
凪はそんな予感を、静かに胸の中で感じていた。

「じゃあ、行こうか。」

陽菜が一歩踏み出す。

「うん。」

二人は並んで駅のホームへ向かった。

休日のホームは、平日とは少し違う。
急ぎ足の人は少なくて、どこかゆっくりと時間が流れている。

電車がホームへ滑り込んできた。

「座れるかな。」

陽菜が小さく言う。

「空いてるといいね。」

ドアが開き、二人は車内へ入った。

窓際に二人並んで座れる席が空いている。

「よかった。」

陽菜が笑う。

電車が静かに走り始めた。

窓の外では、街並みが少しずつ流れていく。

商店街。
住宅街。
小さな公園。

やがて、高い建物が少しずつ減り、緑が増えてきた。

「景色、変わってきたね。」

凪が窓の外を見つめる。

「もう少し行くと田んぼが見えてくるよ。」

陽菜はうれしそうに教えてくれる。
まるで、自分の大切な場所を紹介するみたいに。

その声を聞いているだけで、凪まで楽しくなってくる。

「陽菜って。」

「ん?」

「こういう場所、好きなんだね。」

「うん。」

陽菜は窓の外へ目を向けた。

「風の音が聞こえるから。」

「風の音?」

凪も耳を澄ませてみる。

もちろん、電車の中だから聞こえない。

でも。
陽菜は続ける。

「畑ってね。」

「葉っぱが揺れる音とか。」

「鳥の声とか。」

「虫の声とか。」

「静かなんだけど、ちゃんと音があるの。」

凪はその言葉を、ゆっくり心の中で繰り返した。

静かなんだけど、ちゃんと音がある。

その表現が、なんだか陽菜らしいと思った。

「だから私は。」

陽菜が少し笑う。

「黙っていても退屈しないんだ。」

その一言に、凪は胸の奥が小さく震える。

思い返せば。
教室でも。
帰り道でも。

陽菜との沈黙は、不思議なくらい心地よかった。

(そうか。)

この人は、沈黙を怖がらない人なんだ。

だから私は、
安心できたのかもしれない。

電車が駅へ滑り込む。

車窓の向こうには、
夏の日差しを受けてきらきらと輝く田んぼが広がっていた。

「着いたよ。」

陽菜が立ち上がる。

凪もその景色を見つめながら、静かに立ち上がる。

今日という日は、
まだ始まったばかりだった。

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