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恋は、やっぱり苦しい

帰り道、凪はマフラーに顔をうずめて歩いていた。吐く息が白く、すぐに夜に溶けていく。(今日は……私の番だったのに)そう思うたびに、胸の奥がひりっとする。悠真は少し前を歩いていた。並んでいるはずなのに、距離を感じる。「……寒いな」悠真が独り言みたいにつぶやく。凪は小さくうなずいた。「うん……寒いね」それだけ。本当は聞きたいことがたくさんあった。どうして約束の時間、少し遅れたのか。どうして、どこか上の空なのか。でも、どれも口にできない。(責めるみたいになるの、いやだな……)悠真は足を止めて、振り返った。「凪」呼ばれただけで、心臓が跳ねる。「今日はさ……」言いかけて、言葉が途切れる。その沈黙が、凪にはいちばんつらかった。「……ううん、大丈夫」凪は先に言ってしまう。「私、平気だから」平気じゃないのに。悠真は少し困った顔をした。「ごめん」その一言が、胸に落ちる。理由を聞きたい。でも、聞けない。凪はうつむいたまま、雪を踏みしめる。きゅっ、きゅっ、と小さな音。(この音だけ、覚えておこう)悠真と一緒に歩いた、この帰り道。何も起きなかったけど、何も起きなかったからこそ、忘れられない。別れ道で、悠真が立ち止まる。「……また、明日な」凪は顔を上げて、精一杯笑った。「うん。おやすみ」悠真の背中が遠ざかる。凪はしばらく、その場に立ち尽くしていた。(私、何を期待してたんだろう)胸の奥で、なにかが静かに崩れていく。でも、それでも。(それでも、好きなんだ)その気持ちだけは、雪みたいに消えてくれなかった。夜空を見上げると、細かい雪が、静かに舞い始めていた。凪はそっと目を閉じる。冷たい雪が、頬に触れる。恋は、やっぱ
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この帰り道が、また思い出になるのか

翌朝、凪は少し早めに教室へ入った。まだ人の少ない教室は、いつもより広く感じる。席に座って、何気なくスマホを机の上に置く。……何も来ていない。(わかってたのに)そう思った瞬間、胸の奥がひゅっと冷える。「おはよう」背後から声がして、凪は肩を揺らした。振り返ると、悠真が立っている。いつもと同じ声。いつもと同じ表情。なのに、私の心だけが追いつかない。「お、おはよう」ぎこちない声になってしまう。悠真は少し迷うように凪を見てから、前の席に座った。(何か、言うかな)そう思って待ってしまう自分が、つらい。でも、悠真は何も言わなかった。チャイムが鳴り、授業が始まる。黒板を見ているはずなのに、文字が頭に入ってこない。(昨日のこと、忘れてるのかな)その考えが浮かんで、すぐに打ち消す。(そんなわけない……よね)休み時間。陽菜が悠真のところへ行く。「悠真くん、今日の放課後さ——」その声が、凪の耳に刺さる。悠真は少し驚いた顔をしてから、「うん」と短く答えた。その一瞬で、凪の心臓が大きく鳴る。(……放課後)昨日、凪がひとりで帰った時間。胸がぎゅっと締めつけられる。凪は立ち上がり、逃げるように教室を出た。廊下の窓から、白い雪が舞っているのが見える。(また、雪……)昨日の夜、ひとりで歩いた帰り道がよみがえる。楽しかったはずの記憶も、今はただ、胸を痛くするだけ。放課後。凪は昇降口で靴を履き替えながら、無意識に外を見ていた。悠真の姿を探してしまう自分に、小さくため息をつく。(今日は……期待しない)そう決めたはずなのに。そのとき、後ろから声がした。「凪」悠真だった。心臓が、強く跳ねる。「一緒に……帰れる?」その一言で
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この時間が続くほど……きっと苦しくなる

夕焼けの光が、教室の床をゆっくりと染めていく。窓際の席で、凪はノートを閉じたまま、外を見つめていた。背後から聞こえる、明るい声。「悠真くん、この問題さ……    ちょっと教えてほしいんだけど」振り向かなくてもわかる。その声の主は、クラスの人気者——陽菜(ひな)だった。悠真は少し困ったように笑いながら、それでも丁寧に椅子を引いた。「うん、どこ?」その声は、いつもと同じ。誰に対しても変わらない、誠実で優しい声。それが、凪には苦しかった。鉛筆が紙の上を走る音。二人の距離が、ほんの少し近づく。凪の胸が、きゅっと締めつけられる。(悠真は、悪くない)わかっている。悠真は誰かを選ぼうとしているわけじゃない。ただ、優しいだけ。陽菜は楽しそうに悠真の顔を見上げた。「悠真くんってさ、本当に優しいよね」「……そんなことないよ」「あるよ。クラスのみんなそう思ってるもん」照れたように視線をそらす悠真。その仕草ひとつで、凪の心は揺れた。(わたしは……どうしたらいいんだろう)声をかけたい。そばに行きたい。いつものように笑いたい。でも、足が動かない。この距離が壊れてしまいそうで。悠真が、遠くへ行ってしまいそうで。そのとき——悠真がふと、こちらを振り返った。夕焼けの中で、凪と目が合う。「……凪」小さく呼ばれた名前。それだけで、胸が熱くなる。陽菜も気づいて振り返り、にこっと笑った。「凪ちゃんも一緒に勉強しよ?」その笑顔は本当にやさしくて、嫌なところなんてひとつもない。だからこそ、凪は断れなかった。その瞬間、悠真がそっと凪の方へ近づく。「無理しなくていいよ」低く、穏やかな声。「凪が嫌なら、今日はやめよう」凪は驚いて
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