この帰り道が、また思い出になるのか

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コラム
翌朝、凪は少し早めに教室へ入った。

まだ人の少ない教室は、
いつもより広く感じる。

席に座って、
何気なくスマホを机の上に置く。

……何も来ていない。

(わかってたのに)

そう思った瞬間、
胸の奥がひゅっと冷える。

「おはよう」

背後から声がして、凪は肩を揺らした。

振り返ると、悠真が立っている。

いつもと同じ声。
いつもと同じ表情。

なのに、
私の心だけが追いつかない。

「お、おはよう」

ぎこちない声になってしまう。

悠真は少し迷うように凪を見てから、
前の席に座った。

(何か、言うかな)

そう思って待ってしまう自分が、つらい。

でも、
悠真は何も言わなかった。

チャイムが鳴り、
授業が始まる。

黒板を見ているはずなのに、
文字が頭に入ってこない。

(昨日のこと、忘れてるのかな)

その考えが浮かんで、
すぐに打ち消す。

(そんなわけない……よね)

休み時間。

陽菜が悠真のところへ行く。

「悠真くん、今日の放課後さ——」

その声が、凪の耳に刺さる。

悠真は少し驚いた顔をしてから、
「うん」と短く答えた。

その一瞬で、
凪の心臓が大きく鳴る。

(……放課後)

昨日、
凪がひとりで帰った時間。

胸がぎゅっと締めつけられる。

凪は立ち上がり、
逃げるように教室を出た。

廊下の窓から、
白い雪が舞っているのが見える。

(また、雪……)

昨日の夜、
ひとりで歩いた帰り道がよみがえる。

楽しかったはずの記憶も、
今はただ、胸を痛くするだけ。

放課後。

凪は昇降口で靴を履き替えながら、
無意識に外を見ていた。

悠真の姿を探してしまう自分に、
小さくため息をつく。

(今日は……期待しない)

そう決めたはずなのに。

そのとき、
後ろから声がした。

「凪」

悠真だった。

心臓が、強く跳ねる。

「一緒に……帰れる?」

その一言で、
凪の中の何かが大きく揺れる。

嬉しい。
でも、怖い。

(昨日のこと、何もなかったみたいに……?)

凪は少しだけ間を置いてから、
小さくうなずいた。

「……うん」

雪が静かに降り続く中、
二人は並んで歩き出す。

近いのに、
どこか遠い距離。

この帰り道が、
また思い出になるのか。

それとも——
さらに切ない記憶になるのか。

凪には、まだわからなかった。
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