でも、心は言うことを聞かない

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コラム
朝の教室は、いつもより静かに感じた。

凪は席に着きながら、
無意識に前の席を見てしまう。

悠真の背中。

昨日と同じはずなのに、
どこか遠く見える。

(気にしすぎ……だよね)

そう思おうとするほど、
胸の奥がざわつく。

チャイムが鳴る直前、
悠真が振り返った。

一瞬、目が合う。

凪の心臓が跳ねる。

でも——
悠真は、少し迷うような表情をしてから、
何も言わずに前を向いてしまった。

(……あ)

ほんの一瞬の出来事なのに、
胸がきゅっと縮む。

休み時間。

陽菜が悠真のところへ行くのが、視界に入る。

「悠真くん、昨日寒くなかった?」

明るい声。

悠真は少し驚いたあと、笑った。

「まあ、ちょっと」

その笑顔に、
凪の指先が冷たくなる。

(私の知らない会話……)

黒板を見つめながら、
凪は深く息を吸った。

(大丈夫。大丈夫……)

でも、心は言うことを聞かない。

放課後。

今日は、凪は一人で帰る日だった。

校門を出ると、
空気がひんやりとしていて、
昨日よりも寒く感じる。

歩きながら、
ふと足を止めてしまう。

——ここ。

昨日、悠真と別れた場所。

(また、立ち止まってる……)

自分でも苦笑いしてしまう。

何かあったわけじゃない。
誰かに傷つけられたわけでもない。

それなのに。

(どうして、こんなに苦しいんだろう)

スマホを取り出す。

メッセージは、何も来ていない。

送る理由も、ない。

凪はそっと画面を消した。

空を見上げると、
小さな雪が、ちらちらと舞い始めていた。

(あの日みたい……)

まだ、楽しかった記憶の方が新しいのに、
それがもう
遠いものみたいに感じてしまう。

「……戻れないのかな」

小さくこぼれた言葉は、
雪に吸い込まれて消えた。

凪は歩き出す。

足元で、雪が静かに音を立てる。

その音だけが、
今の自分がここにいる証みたいだった。

恋は、
誰かに奪われたわけじゃない。

でも、
少しずつ、
自分の手からこぼれていく気がする。

その感覚が、
凪の胸を、今日も締めつけていた。
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