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ありがとうの続きは、 ちゃんと、春の風が運んでくれた

あれから、季節が三つ過ぎた。冬を越え、校庭の桜がほころび始めるころ。卒業式の朝、彼は少し早めに登校した。人気のない教室の窓を開けると、春の風がそっと吹き込んできた。その風の中に、どこか懐かしい香りが混ざっていた。まるで――あの日、夕陽の中で彼女が笑ったときのような。机の上に、白い封筒が一つ置かれていた。宛名はなかった。けれど、見覚えのある文字だった。「ありがとうの続き、届いたよ。」胸が熱くなった。手が震えて、封を開けるのに少し時間がかかった。中には一枚の便箋。端が少し折れていて、ところどころインクが薄い。それでも、文字は確かに彼女のものだった。「あのとき言えなかった言葉を、 風が運んでくれたみたい。 あなたの“ありがとう”が、私の心に届いたの。 だから、私も返すね。 “ありがとう”、そして“さようなら”。 でも、本当は“またね”って言いたい。」涙がまたこぼれた。けれど、今度の涙は悲しみじゃなかった。あたたかくて、やさしい、春の光みたいな涙だった。窓の外では、桜の花びらが風に舞っている。その一枚が彼のノートの上に落ちた。彼は微笑んで、手紙を胸に抱きしめた。「……うん、またね。」その瞬間、春風が強く吹いた。机の上の折り鶴が、ふわりと宙に舞い上がる。光の中で、それはまるで――彼女の笑顔が、もう一度帰ってきたみたいだった。ありがとうの続きは、ちゃんと、春の風が運んでくれた。
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もし風がこの手紙を運んでくれるなら、もう一度、君に会えるかな

放課後の教室には、もう誰もいなかった。窓から差し込む光が、机の上に淡く広がっている。その光の中で、折り紙の鶴が静かに揺れた。あの日と同じ風が吹いていた。だけど、もう彼女はいない。机の中に手を伸ばすと、ノートの端に、小さな紙片がはさまっていた。それは――彼女の字だった。「ありがとうの続き、聞いてくれる?」その一行だけで、世界が止まった気がした。彼は席に座り、ペンを取り出してノートを開いた。ゆっくりと深呼吸をしてから、言葉を探すようにペン先を動かした。「ありがとう。  ちゃんと聞こえてたよ。  あの日の夕陽の中で、   君が笑ってくれたこと、ずっと覚えてる。」ペン先が震えた。涙が落ちて、文字の端を少しだけにじませた。「もし風がこの手紙を運んでくれるなら、   もう一度、君に会えるかな。」窓の外で、風が強く吹いた。ノートのページが一枚、ふわりと舞い上がり、光を受けて宙に浮かんだ。その瞬間、風の中に、確かに彼女の声が混じっていた。「……聞こえてるよ。ありがとう。」彼は目を閉じた。もう涙は流れなかった。風がやさしく頬を撫でていった。机の上の折り鶴が、夕陽に照らされて輝いていた。その光は、どこか遠い空の向こうへ続いていくようだった。ありがとうの続きは、風の中でちゃんと届いていた。
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「またね」って言ったら嘘になる気がして

机の中には、しわくちゃの封筒が一つ。折り目の数だけ、ためらった証拠が残っていた。封も切らず、宛名も書けず、ただ日付だけが増えていく――そんな手紙。親愛なるあなたへ。この手紙が濡れたら、きっと文字がにじんで、言葉が消えてしまうでしょう。だから私は、あの日、傘を二本持っていきました。一つは、誰かを守るために。もう一つは、この手紙を守るために。本当はどちらも、私の心を守るための傘でした。昨日の放課後。夕陽の中で笑い合ったとき、彼の瞳に“別れ”が映った気がした。それでも、笑っていた。笑うしか、できなかった。「ありがとう」って言ったら終わっちゃいそうで。「またね」って言ったら嘘になる気がして。だから何も言えなかった。ただ風が吹いて、髪が揺れて、あの一瞬だけ――“好き”がこぼれそうだった。あなたに会えて、よかった。それを伝えるために書いた手紙なのに、どうして私は、まだ封をできずにいるんだろう。放課後のチャイムが鳴る。窓の外、雲の隙間から光が差す。その光は、まるで彼の笑顔みたいだった。もう届かなくてもいい。でも、ちゃんと生きてるこの想いだけは消したくなかったんだ。封筒を胸に抱きしめて、彼女はゆっくりと立ち上がる。風がまた吹いた。まるで誰かが「行っておいで」と背中を押したように。ありがとうの続きは、きっと、まだここにある。
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