もし風がこの手紙を運んでくれるなら、もう一度、君に会えるかな
記事
コラム
放課後の教室には、
もう誰もいなかった。
窓から差し込む光が、
机の上に淡く広がっている。
その光の中で、折り紙の鶴が静かに揺れた。
あの日と同じ風が吹いていた。
だけど、もう彼女はいない。
机の中に手を伸ばすと、
ノートの端に、小さな紙片がはさまっていた。
それは――彼女の字だった。
「ありがとうの続き、聞いてくれる?」
その一行だけで、
世界が止まった気がした。
彼は席に座り、
ペンを取り出してノートを開いた。
ゆっくりと深呼吸をしてから、
言葉を探すようにペン先を動かした。
「ありがとう。
ちゃんと聞こえてたよ。
あの日の夕陽の中で、
君が笑ってくれたこと、ずっと覚えてる。」
ペン先が震えた。
涙が落ちて、文字の端を少しだけにじませた。
「もし風がこの手紙を運んでくれるなら、
もう一度、君に会えるかな。」
窓の外で、風が強く吹いた。
ノートのページが一枚、ふわりと舞い上がり、
光を受けて宙に浮かんだ。
その瞬間、
風の中に、確かに彼女の声が混じっていた。
「……聞こえてるよ。ありがとう。」
彼は目を閉じた。
もう涙は流れなかった。
風がやさしく頬を撫でていった。
机の上の折り鶴が、
夕陽に照らされて輝いていた。
その光は、どこか遠い空の向こうへ続いていくようだった。
ありがとうの続きは、
風の中でちゃんと届いていた。