このブログも今回で5回目となりました。いつもお読みいただきありがとうございます。
あまり頻繁に更新しすぎても皆さまの負担になるかと思いますので、節度をもって、現場の役に立つ情報を発信していければと思います。
今回は、クレーム対応の大きな分かれ目となる「文書回答」についてのお話です。
厳しい抗議を受ける中で、相手から「今の説明を文書で出せ」「いつまでに改善するか書面で回答しろ」と強く迫られる場面があります。
現場のスタッフも「確かに不手際があったかも」と痛いところを突かれていると、つい「文書を出せば納得してもらえるのではないか」「この窮地を早く脱したい」という心理から、安易に約束をしてしまいがちです。
しかし、文書回答は病院にとって大きなリスクを孕んでいます。
【なぜ文書回答は「スパイラル」を招くのか】
文書は口頭と違い、一字一句が「病院の言質」として残ります。
悪質なケースでは、回答内容そのものよりも、以下のような「言葉の揚げ足取り」が目的化することが少なくありません。
「この表現は、非を認めたということだな?」
「前回の説明と、この一文のニュアンスが違う」
「回答が不十分だ。再回答を求める」
こうなると、回答作成に膨大な時間を奪われ、出せば出すほど相手の攻撃材料が増えていく、出口のない「質問と回答のスパイラル」に陥ってしまいます。
【出すべきか、出さざるべきか:3つの判断基準】
私は文書回答を求められた際、以下の基準で判断しています。
「正当な理由」に基づいた事実確認か: 組織を支配する道具にされていないか。
機密事項に立ち入っていないか: 院内会議や個人情報など、開示できない領域への要求ではないか。
「解決」に資するか: 収束に向かう見込みがあるか、それとも火種になるだけか。
【あえて「答えない」という選択:静観と無視】
また、相手から文書で質問が届いた際、すべてに律儀に回答する必要があるとは限りません。
内容や相手のこれまでの経緯によっては、あえて「静観(無視)」するという判断も、立派な危機管理です。
「無視をするのは不誠実ではないか」と不安になるかもしれません。
しかし、合理性のない要求や、同じ質問の繰り返しに対しては、回答すること自体が相手を増長させ、解決を遠ざける結果を招きます。
これについては、また別の機会に詳しくお話しできればと思いますが、「答えないことが、最大の防御になる」局面があることも、ぜひ覚えておいてください。
【私の失敗談と、弁護士からの『金言』】
私自身、病院職員になって間もない頃、文書回答で苦い経験をしました。
認知機能が低下し、虚実が錯綜する状態の高齢患者さんの息子さん(実は警察OBの方でした)から、「看護師に虐待された。事実調査をして文書で回答しろ」と強く要求されたのです。
私は「同じ警察出身者なら、しっかり調査して誠実な文書を出せばわかってくれるはずだ」と考え、元警察官であることを明かした上で、多大なパワーを割いて詳細な調査報告書を作成し、郵送しました。
しかし、結果は逆効果でした。
数日後、「調査内容に納得できない。再調査しろ。さもなくばしかるべき機関に通報する」と、以前より高圧的な要求が返ってきたのです。
困り果てた私は、お世話になっていた弁護士の先生に相談しました。
そこでいただいたのが、今も大切にしているこの言葉です。
「ここまでの調査を行って文書化したのであれば、回答は一度で十分です。先方には『これ以上の対応はしない』と伝えれば良い。保健所から確認があっても、この文書を提出して経過を説明すれば、何も問題ありません」
このアドバイスに従い、「これ以上の回答はいたしません」と毅然と返信したところ、以降、要求はなくなり、患者さんも穏やかに退院されました。
【現場を守るために】
基本は「口頭で合理的な説明を尽くすこと」が原則です。
「誠意がない」と責められても、「真摯にご説明することが最善だと考えております」と、対話の土俵を維持する勇気を持ってください。
また、担当者が一人で抱え込まず、病院組織として「これが最終回答である」と決定することも重要です。
組織のバックアップがあることで、担当者のプレッシャーは軽減され、安易な「その場しのぎの回答」を防ぐことができます。
一通の回答書が、スタッフを疲弊させる凶器になってはいけません。
もし今、回答書の作成でペンが止まっているのなら、一度立ち止まって戦略を練り直してみませんか?
一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。