3月3日。
ひな祭りだった。
うちには息子しかいないから、
特別なことはしなかった。
いつもより少しだけ彩りのある夕食を作って、
「今日ひな祭りだねー」と息子に話したくらい。
夫も、いつも通りテレビを見ていた。
何も変わらない夜。
そのはずだった。
食器を片付けているとき、
スマートフォンが震えた。
彼からだった。
LINEではなく、電話。
一瞬、息が止まった。
どうして今日なんだろう。
私は、静かに通話ボタンを押した。
「もしもし」
「今日、ひな祭りだろ」
彼はそう言って、少し笑った。
「なんとなく、声聞きたくなった」
その一言で、
胸の奥が熱くなった。
今日は、家族の日のはずなのに。
彼にも、家族がいるはずなのに。
それでも私に電話をくれた。
嬉しいのに、苦しかった。
私は、何を喜んでいるのだろう。
自分も既婚者なのに。
それでも、その夜は、
彼の声だけが、ずっと耳に残っていた。
― 続く ―
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ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
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