10分の遅刻⑧

記事
コラム
ある朝、私は
学校に10分ほど遅刻してしまいました。

両親は共働きで、
朝早くから家を出ているため、
朝はいつもいません。

代わりに祖父母が
私の世話をしてくれていたので、
強く怒られることもありませんでした。

その安心感からか、
私はテレビを見ながら

あの日も、
のんびりと支度をしていました。

怒られることも、
急かされることもない。

少し、気が緩んでいたのかもしれません。

「遅刻してしまった」

それだけで、
少し胸の奥が、そわそわしました。

先生に怒られるかもしれない。
遅刻が両親に知られたら、
叩かれるかもしれない。

そう思うと、
自然と足は速くなっていました。

少し遅れただけなのに、
通学路には子どもたちの姿はありません。

もともと人通りもほとんどない道を、
私は一人で歩いていました。

そのとき――

突然、
私の左肩に何かが触れました。

驚いて左肩の方を見ると、
大人の大きな手が
私の肩に置かれています。

驚いて、
恐る恐る見上げると__

私よりずっと背の高い、
知らない男性が立っていました。

その男性は、にやりと笑い、
私を見下ろして言いました。

「遅刻したの?」

私は、驚きすぎて声が出ず、
小さく頷くしかできませんでした。

足を止めることもできず、
肩に手を置かれたまま、
なぜか私はその男性と一緒に
学校の方へ歩き続けました。

何か話しかけられていましたが、
怖くて、
ほとんど耳に入ってきません。

知らない男性に
こんなふうに話しかけられたことは
今まで一度もありませんでした。

体も心も硬直し、
何が起きているのか分からないまま、
頭の中は混乱していました。

途中で、
若い会社員風の男性とすれ違いました。

その人は、
私たちの異様な雰囲気に
何かを感じ取ったのか、
不思議そうな顔で一瞬こちらを見ました。

その瞬間――

私の肩にあった手が、
ぱっと離れました。

男性は
私の少し後ろを歩き始めました。

私はとっさに距離を取り、
歩く速度を少し速めました。

でも、走ることはできません。

ここで走ったら、
「逃げた」と思われるかもしれない。
追いかけてくるかもしれない。

幼いながらに、
これは普通ではない。
「怖い」。

その想いが一気に押し寄せました。

私は運動が得意ではなく、
走るのは他の子より遅い。
それを、自分でよく分かっていました。

走れば、すぐ追いつかれて、
怒られるかもしれない。

そう思ったのです。

無我夢中で、
後ろを振り向くこともできないまま、
とにかく早足で進みました。

そして__

通学路の途中にある
歩道橋が見えてきました。

あの階段を上れば、
学校まで残り半分。

胸の奥が
少し、ほっとしていました。

けれど私は、
まだ気づいていませんでした。

この後の朝の出来事が、
私の中でずっと消えない記憶になることを。

mito



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