距離はあるのに。心は、近い。
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電話の向こうで、笑い声が重なる。
さっきまでの少しぎこちない空気は、もうない。
自然に話してる。
それだけで、少しうれしい。
陽菜が、ふっと声を落とす。
「ねえ」
少しだけ間。
「今、何してる?」
凪は、少しだけ部屋を見渡す。
「ノート見てた」
正直に答える。
陽菜が、くすっと笑う。
「まじめだね」
軽い声。
でも、どこかやさしい。
凪も、少しだけ笑う。
「全然進んでないけど」
そのやりとり。
なんでもない会話。
でも、
なんでこんなに、安心するんだろう。
そのとき、
陽菜が、ぽつりと。
「さ」
少しだけ声が近づく。
「今からさ、窓開けてみて」
凪が、少しだけ驚く。
「え?」
「いいから」
少しだけ笑いながら。
でも、ちょっと強引。
凪は、立ち上がる。
カーテンを少し開けて。
窓を、ゆっくり開ける。
夜の空気が、ふわっと入ってくる。
少し冷たい。
でも、気持ちいい。
「……開けた」
凪が言うと。
陽菜が、少しだけうれしそうに言う。
「ね」
少し間。
「同じ空気だよ」
その一言。
凪の心が、ふっとほどける。
離れているのに。
同じ夜。
同じ空気。
つながってる感じ。
凪は、少しだけ空を見上げる。
星が、少しだけ見える。
「……ほんとだ」
小さくつぶやく。
その声が、少しだけやわらかい。
陽菜が、続ける。
「だからさ」
少しだけ照れたように。
「そんなに遠くないよ」
その言葉。
凪の胸に、じんわり広がる。
距離はあるのに。
心は、近い。
凪は、気づく。
(あ……)
この感じ。
安心とも、違う。
でも、すごく、あたたかい。
「……陽菜」
少しだけ声を出す。
陽菜が、すぐに返す。
「なに?」
凪は、少しだけ迷って。
逃げずに言う。
「明日、一緒に帰るの」
少し間。
「楽しみ」
その一言。
電話の向こうで、少しだけ沈黙。
それから、
小さく笑う声。
「……わたしも」
やわらかくて、
少しだけ照れている声。
夜の空気が、静かに流れる。
さっきまでとは、もう違う。
二人の間に、確かに何かが生まれている。
そして、この夜は、
ただの“迷いの時間”じゃなくて。
“誰かとつながる時間”に、変わっていた。