先生の声が遠くで響いている。
「観察できた班から、考察を書いていってください。」
ペンが紙の上を走る音。
凪は、静かに書く。
字は整っている。
乱れない。
感情と違って。
「ここ、どう書く?」
陽菜が悠真に小さく尋ねる。
「えっと……」
悠真が考える。
「分裂の段階で、核が――」
ふたりの声は、低く、近い。
凪は、書きながら聞いてしまう。
聞かなくていいのに。
陽菜は、うなずきながらメモをとる。
「なるほどね。じゃあ、こうかな。」
さらりとまとめる。
自然に。
凪は思う。
わたしは、まとめる前に、迷う。
言葉を選びすぎる。
空気を気にしすぎる。
陽菜は、まっすぐ。
悠真は、そのまっすぐさを見ている。
その目は、やさしい。
凪は、胸の奥が少しだけ冷えるのを感じる。
どうして。
どうして、比べるんだろう。
比べたくないのに。
「凪、ここどう思う?」
ふいに、悠真の声。
顔を上げる。
視線が、ちゃんと向いている。
「え……」
言葉が、一瞬遅れる。
「いいと思う。」
それだけ。
もっと何か言えたはずなのに。
陽菜が笑う。
「凪、ほんと冷静だよね。」
褒めている。
ちゃんと。
でも。
凪の胸は、なぜか少し痛む。
冷静。
それは、明るくない、ということ。
場を変えない、ということ。
実験は、まだ終わらない。
光は変わらない。
三人は同じ机にいる。
でも。
凪の中で、
“どう考えても”
が、また一枚重なる。
好きでいることが、
少しだけ、苦しくなる。