夕暮れの廊下に、沈黙が重く落ちていた。
凪の胸はまだ、告白の余韻で震えている。
(言っちゃった……)
悠真の目をまっすぐ見て、
想いを伝えてしまった。
後悔はない。
でも、怖かった。
悠真はしばらく黙ったまま、
二人を交互に見つめていた。
「……急にこんなことになって、ごめん」
小さくつぶやく。
「でも、ちゃんと考えたい」
陽菜が一歩近づく。
「悠真くん」
その声はやさしいけれど、真剣だった。
「考える時間はあげる。でもね……」
一瞬、言葉を選ぶように唇を噛む。
「私は待つだけの恋はしないよ」
凪の胸がぎゅっと締めつけられる。
(陽菜ちゃん……強い)
悠真は驚いたように目を見開いた。
「陽菜……」
「好きだからこそ、動くの」
そう言って、少し照れた笑顔を見せる。
「悠真くんと、もっと一緒にいたい」
その宣言に、空気が一気に熱を帯びた。
凪は思わず手を握りしめる。
(負けたくない……)
でも、どう動けばいいかわからない。
悠真は苦しそうに眉を寄せた。
「二人とも……」
声が震えている。
「俺は、誰かを選ぶってこんなに怖いって知らなかった」
その正直さが、余計に胸を締めつける。
陽菜は少しだけ黙り、それから静かに言った。
「じゃあさ」
凪と悠真を見る。
「明日、放課後」
凪の心臓が跳ねる。
「悠真くん、私と二人で帰ろう」
突然の誘い。
悠真は固まる。
凪の息が止まりそうになる。
(え……)
陽菜は凪に向かって続けた。
「その次の日は、凪ちゃんと帰って」
凪の目が大きく開く。
「それで……悠真くんがどんな気持ちになるか、
自分で感じて決めて」
大胆だけど、どこまでも正直な提案。
悠真はしばらく考え込んでから、
ゆっくりうなずいた。
「……わかった」
その一言に、凪の胸がドクンと鳴る。
陽菜はほっとしたように笑った。
「よし、決まりだね」
夕焼けの光の中で、三人の運命が少し動いた。
明日は——
悠真と陽菜。
その次は——
悠真と凪。
ただの帰り道が、
恋の行方を決める大切な時間になる。
凪は胸の奥でそっと祈った。
(悠真……私のそばにいて)
陽菜は前を向いて歩きながら、
静かに決意していた。
(絶対に振り向かせる)
悠真は二人の背中を見つめながら、
深く息を吐いた。
誰も悪くない。
でも、選ばなければならない。
——恋は、もう逃げ場のない場所まで来ていた。