黙っていたら、また誰かが決める

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コラム
翌朝。

教室に入った瞬間、凪はそれを感じた。

——昨日とは、違う。

視線がある。
でも、向けられているのに、合わない。

話し声はある。
でも、凪が近づくと、
少しだけ音量が下がる。

「……おはよう」

小さく挨拶をすると、
二、三人が、ワンテンポ遅れて返してくる。

それだけ。

それ以上でも、それ以下でもない。

(大丈夫……)

凪は自分に言い聞かせる。

誰も、何も言ってこない。
直接、責められているわけじゃない。

なのに。

胸の奥が、ずっとざわついていた。

席に着くと、
前の席の女子が、
ひそっと友達に耳打ちする。

「昨日の、見た?」
「三條くんと話してたよね」

声は小さい。
でも、凪にははっきり聞こえた。

「結局、どっちなの?」
「守られてるのか、利用してるのか」

——利用。

その言葉が、刺さる。

凪は、俯いて教科書を開く。

文字が、頭に入らない。

(違う……)

でも。

違う、と言うには、
昨日も、今日も、
まだ足りない。

悠真は、まだ来ていなかった。

それが、余計に不安を煽る。

——今日は、守ってくれる人はいない。

チャイムが鳴る直前、
後ろの席から、声が落ちてきた。

「ねえ」

振り向くと、
クラスでも目立つ女子が立っている。

敵意をむき出しにするタイプじゃない。
むしろ、誰からも好かれる側。

だからこそ、怖い。

「はっきりさせたほうが
   いいと思うんだけど」

周囲が、しんと静まる。

「悠真くんのこと」
「三條くんのこと」
「……あと、噂のこと」

凪の心臓が、大きく鳴る。

「私たち、
   巻き込まれてる感じするんだよね」
「クラスの空気、変わったし」

“私たち”。

その言葉で、
凪は理解する。

——これは、個人の問題じゃない。

「別に責めてるわけじゃないよ?」

そう前置きして、
彼女は続ける。

「でも、黙ってるとさ」
「余計、変なふうに広がるから」

正論。
とても、正しい。

だからこそ、逃げ場がない。

凪は、立ち上がろうとして、
足が震えていることに気づく。

(言わなきゃ)

守られるだけじゃ、だめだ。
黙っていたら、また誰かが決める。

凪は、深く息を吸う。

「……私」

声が、かすれる。

それでも、続ける。

「私、誰かを泣かせるつもりも」
「利用するつもりも、ない・・・」

視線が、一斉に集まる。

怖い。
でも、目を逸らさない。

「ただ……」
「どうしていいかわからなくて」
「黙ってただけで・・・」

それは、弱い言葉だった。

でも、嘘じゃない。

教室の空気が、わずかに揺れる。

「じゃあさ」

別の声が、重なる。

「これからは?」
「どうするの?」

——来た。

選別の質問。

凪は、一瞬、迷う。

でも。

昨日、三條に言われた言葉が、
胸の奥で響く。

選ぶの、遅れないでね。

凪は、ゆっくりと顔を上げる。

「……ちゃんと、話す」
「逃げない」

断言はできない。
完璧な答えでもない。

それでも。

「自分の言葉で、向き合う」

その一言で、
教室の空気が、少しだけ変わった。

完全に味方になる人も、
完全に疑いを捨てる人もいない。

でも。

——凪は、
もう“無言の存在”ではなかった。

そのとき、
教室の扉が開く。

遅れて入ってきた悠真と、
その後ろに立つ先生。

悠真の視線が、凪を捉える。

何かを察したように、
一瞬だけ、目が揺れた。

凪は、小さくうなずく。

大丈夫、とは言えない。
でも——

立っている。

事件は、
次の局面へ進もうとしていた。
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