境界線を越える処方箋 ——「断りにくさ」の向こう側にある危機

境界線を越える処方箋 ——「断りにくさ」の向こう側にある危機

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コラム
 「綺麗になりたい」「痩せたい」という切実な願いは、多くの人が心に抱くものです。
 しかし今、その思いの行き着く先で、ある医薬品のあり方が大きな議論を呼んでいます。

 本来は糖尿病の治療薬である「マンジャロ」が、ダイエット目的として使用され、問題視されているのです。
 最近、東北地方のある、精神科クリニックの院長が、体形に悩む数人の女性患者に対し、この薬を自由診療で定期処方していたことが明らかになりました。
 院長は取材に対し「糖尿病治療以外に使うべきではないと理解はしているが、患者に頼まれると断りにくい」と胸の内を明かしたといいます。
 医師としての裁量を口にしつつも、目の前の患者の懇願に揺れる姿がそこにはありました。しかし、その「優しさ」や「断りにくさ」は、時に重大な過ちへとつながりかねません。
 私たちは今一度、はっきりと「断るべき一線」があることを認識しなければならないのだと感じます。

 そもそも、美容外科などでの自由診療をきっかけに広がったこのダイエット目的の処方ですが、本来の目的外での使用は安全性や有効性が確認されていません。
 それどころか、予期せぬ副作用のリスクさえ孕んでいます。事態を重く見た厚生労働省は、すでに各自治体や日本精神科病院協会などの医療関係団体へ向けて、適正な使用を促す注意喚起を行っています。

 特に精神科という領域において、この問題はさらに深刻な意味を持ちます。薬物依存や摂食障害に詳しい専門家は、精神科の患者さんは自身の体調悪化に気づきにくい傾向があると指摘します。
 そうした背景の中でマンジャロを安易に処方することは、摂食障害などの症状を助長し、最悪の場合には極度の栄養失調による生命の危機を招く恐れすらあるのです。

 医師免許を持つ者は、基本的にはあらゆる医薬品、ときには精神安定剤などの麻薬指定薬であっても処方できる強い権限を持っています。
 だからこそ、その手にあるペンと処方箋の重みを、誰よりも医師自身が自覚しなければなりません。患者の「痩せたい」という心の痛みに寄り添うことと、求められるがままに薬を差し出すことは決して同義ではないはずです。
 医療が命を守るためのものであるならば、時には冷徹に見えるほどの「拒絶」こそが、真の救いになるのではないでしょうか。

※明日(14日、15日は師僧の寺院に修行に参りますので、ブログの更新をお休みさせていただきます)


                         沙門蒼俊   合掌
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