日本には、どこか不思議な「ねじれ」が存在しています。
統計を見る限り、私たちの国はうつ病の診断数が他国に比べて低いように見えます。
しかしその一方で、自殺死亡率はG7(主要7カ国)の中で最も高いという、悲しい現実を抱えているのです。
特に10代や20代といったこれからの未来を担う若年層において、死因の第1位が「自殺」となっているのは、先進国の中で日本だけです。
専門家の分析によると、自殺の背景にある約2割には、うつ病をはじめとする精神疾患が影響しているそうです。
これは裏を返せば、多くの人が苦しみの淵にありながら、適切な治療やサポートに繋がっていない実態を示しています。
心が悲鳴を上げていても、精神科や心療内科の門をたたく割合が、日本は他国に比べて圧倒的に低いのです。
なぜ、私たちは病院へ行くことをためらってしまうのでしょうか。
その背景には、「未診断の多さ」が隠されています。
欧米ではメンタルに不調を感じた際、カウンセリングを受ける文化がごく自然に定着しており、経験者は半数を超えています。
一方の日本は、わずか数パーセント。つまり、多くの人が病院へ足を運ばないため、「うつ病」としてカウントされていないだけなのかもしれません。
専門家の見解でも、表に出ていない潜在的な患者数は、欧米と同じように10〜20%にのぼるのではないかと言われています。
公式な「診断名」を離れ、個人の主観に耳を傾けたグローバル調査を見ると、私たちの本当の姿が浮かび上がってきます。
自分の心の状態を「不調」「やや不調」と答えた日本人の割合は、なんと45%に達しています。
これは世界16カ国の中で、イギリスに次ぐワースト2位という高い水準です。
私たちは日常的に強いストレスやメンタルの揺らぎを感じていながらも、それを「病気」とは認めなかったり、「自分が我慢すればいい」と耐え忍んだりしてしまう傾向が強いようです。
生涯でカウンセリングを受けたことがある人の割合は、欧米諸国が約40〜50%以上に達するのに対し、日本はわずか約6%にとどまります。
海外ではフィットネスジムに通うように、ごく当たり前の「心のセルフケア」として定着しているカウンセリングですが、日本ではいまだに高いハードルが存在します。
そのハードルの正体は、社会的な目だけでなく、経済的なシステムにもあります。
日本では精神科医による診察や投薬には公的保険が使えますが、臨床心理士などによるカウンセリングは原則として全額自己負担となり、1回につき5,000円から15,000円ほどの手痛い出費となります。
これに対して、アメリカの民間保険やドイツの公的保険などではカウンセリング費用がカバーされる仕組みが多く、経済的な障壁が低く抑えられています。
メンタルに不調があるときに、誰もが気軽に「助けて」と言える社会。
そして、その手が温かく差し伸べられる仕組み。そんな優しさが当たり前になる日を、私たちは優しく、しかし切実に待ち望んでいるのかもしれません。
沙門蒼俊 合掌