"森の中のガゼボ"【ショートストーリー#3】

記事
小説
恋と愛。

恋は、落ちるもの。
愛は、育むもの。

恋は、胸の苦しさと痛み、焦がれるような激情を、甘い蜜のように感じる。
それはさながら甘いハチミツを舐めた時に喉がヒリヒリと焼け付くような。

愛は、安らぎと満ち足りた幸福の中で、恐れも不安も無く、ただ身をゆだねる。
それはさながら温かな毛布に包まれて眠りにつくような。

私は今、恋をしている。
「狂おしい」という言葉以外に、今の私を的確に表現できる言葉は無いというくらい。

どうしようもなく、恋をしている。

嗚呼、何故、恋とはこんなに苦しいものなのか。
愛は、あんなにも温かく心地良いものなのに。

お父様とお母様が決めた許婚は、隣国の王子で、よく私の王宮にも遊びに来ていた。
私よりも少し年上の王子は、とても優しくて、いつも青い湖のような静かな瞳で私を見守ってくれた。

私が欲しいと望んだものは、何でも与えてくれた。
私がしたいと願ったことは、何でも許してくれた。

王子の抱擁は温かく、ホッとするような、陽だまりのぬくもりを感じさせた。

しかし、私は落ちてしまったのだ。
恋に。

森の中で見つけた小さなガゼボ。
王宮の庭園にあるガゼボと比べれば、決して豪華ではないけれど、木漏れ日のスポットライトを浴びた森のガゼボは、私の目にとても幻想的に映った。

お父様の狩りに同行し森の中で牡鹿を追っていた時に、ひとりだけはぐれてしまい、深い森の奥に迷い込んでしまった私が辿り着いたのが森のガゼボだった。
その美しさに心奪われ、疲れを癒すために馬を繋ぎ、ガゼボの中で腰を下ろした。

そこで、貴方と出会ってしまったのは、運命の悪戯か、神様の意地悪か。

馬が人の気配を察して顔を上げ、私は貴方の存在を認めた。
森の外れに小屋を構え、木こりとして生活している貴方は、その日湖の水を汲みに森へとやって来ていた。

私の馬と身なりを見て、貴方は私が王族の者だとすぐに分かったらしかった。
道に迷った私を、貴方は助けてくれた。
道案内し、城の見える森の外れまで送り届けてくれた。

私はその時既に、妙な胸騒ぎを覚えていた。

離れたくない。
別れたくない。
貴方と、また会いたい。

ふと視線が絡み合い、私たちは互いの心の声を確かに聞いた。
恋に落ちたのは、私だけではなかった。

貴方は何も言わなかったけれど、その瞳が燃えるように揺らめいたのを、私は見逃さなかった。
口づけを交わすのに、理由など要らなかった。

唇を重ね、私たちは背を向け合い、貴方は森へ、私は城へと向かっていった。

私の心は貴方に支配された。
寝ても覚めても貴方のことしか考えられず、貴方を想えば胸が心地よい痛みを覚えた。

そして私は森へと出かけ、あのガゼボを探すようになった。
貴方の道案内の記憶を辿り、ついにガゼボを見つけた時、貴方はそこで私を待っていた。

「毎日ここで貴女をお待ちしていました」
耳に触れる貴方の声が、私の全身を震わせた。
私は貴方に駆け寄り、ガゼボの中でかたく抱き合った。

胸が焼けるように熱く、目からは涙が溢れ頬を伝った。


それから、私は毎日のように城を抜け出し、森のガゼボに足を運んだ。
貴方はいつも私を待ちわびた。

城にいる時、貴方を想うと息苦しくなり、心がどこかに迷子になるようだった。
ヒリヒリと焦げ付くような衝動を抑え、森で貴方と抱き合う瞬間を夢見るのだ。

白昼夢のような恋。
身分違いの叶わぬ恋。
おそらく永遠に結ばれない私たち。

それでも私は束の間の夢の中で、貴方を求め、貴方に手を伸ばす。
秘密の森の、秘密のガゼボは、私たちを優しく穏やかに包み込み、決して明かされない恋物語を、今宵も静かに紡ぐのだった。

お題:森の中のガゼボ
文体:常体
テイスト:泣ける、切ない、ラブストーリー

イラスト作成:NAMay様

ライティングのご依頼、承っております!
プロフィールからサービスページをご覧ください。


サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら