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コラム
夕方5時に起きる子を、母は「怠け」と呼ぶのをやめた
記事
コラム
育児・不登校・海外子女相談専門 奥村直之
2026/06/27 10:14
―昼夜逆転の部屋で、子どもは何をしていたのか―
午後5時。
外では小学生たちが下校している。
ランドセルの音。
友だち同士の笑い声。
夕飯の支度をする家々の匂い。
その頃、彼はようやく起きる。
高校1年の冬から、彼の生活は昼夜逆転した。
寝るのは朝方。
起きるのは夕方。
食事は一日一回か二回。
風呂に入るのも不定期。
部屋にはペットボトルが並び、カーテンは閉まったままだった。
母親は、最初それがどうしても許せなかった。
「昼まで寝るならまだしも、夕方まで寝るなんて」
「このまま社会に出られなくなる」
「生活リズムだけでも戻さなきゃ」
そう思い、何度も声をかけた。
「朝だよ」
「起きなさい」
「夜はスマホをやめなさい」
しかし、声をかけるほど、彼は不機嫌になった。
ドアを閉める音が強くなった。
返事がなくなった。
そして母親は、ある日、支援者に言われた。
「今は、寝ていることで何とか自分を保っているのかもしれません」
その言葉が、母親の中に残った。
怠けているのではなく、保っている。
逃げているのではなく、崩れないようにしている。
母親は、その日から朝に起こすのをやめた。
代わりに、夕方起きてきた息子に聞くようにした。
「何か食べる?」
「味噌汁あるよ」
「お風呂、入りたくなったら沸かすね」
最初、息子はほとんど答えなかった。
でも、数週間たったある日、冷蔵庫を開けながら言った。
「昨日の味噌汁、まだある?」
母親は、できるだけ普通に答えた。
「あるよ」
それから少しずつ、息子は夕方にリビングへ来るようになった。
テレビを見ながら、ぽつりと学校の話をした。
「別に嫌いなやつがいたわけじゃない」
「でも、教室にいると息が詰まった」
「朝になると、体が鉛みたいだった」
母親は、その言葉を聞いて初めて分かった。
息子は、朝が嫌いだったのではない。
学校へ向かう朝が怖かったのだ。
夜更かしが好きだったのではない。
朝を迎えるのが怖くて、夜に逃げていたのだ。
もちろん、昼夜逆転をずっと放っておけばいいわけではない。
体調を崩すこともある。
孤立が深まることもある。
必要なら専門家の支えも必要になる。
けれど、いきなり正しい生活に戻そうとすると、子どもはさらに追い詰められることがある。
私は、不登校の子の生活リズムを見るとき、「何時に起きたか」だけでなく、「何を守るためにその生活になっているのか」を見たいと思う。
夕方5時に起きる子にも、その子なりの理由がある。
まずは責める前に、見ること。
そして、起きてきたその一瞬を、つながり直す入口にすること。
回復は、朝7時に起きることから始まるとは限らない。
夕方の味噌汁から始まることもある。
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