第12回:投資をしよう ~ 理論株価の計算(エクセルを使用したツール公開中!)

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第12回:投資をしよう ~ 理論株価の計算(エクセルを使用したツール公開中!)

この度はお読み頂きまして誠に有難うございます。Taskaruです。本ブログではコーポレート・ファイナンスに関わる話題を幅広く取り上げていきたいと考えています。

これまで第8回~11回までで、企業価値評価や理論株価計算の方法について、その仕組みや考えを説明して参りました。今回は、それらを踏まえて、応用編として、出品中のサービス「企業価値評価・理論株価の計算」エクセルシートの使用方法を紹介したいと思います。

【企業価値評価や株式分析・理論株価の計算でよく使われるDCF(Discount Cash Flow)分析を行えるエクセルシートを出品中です】

さて、DCF分析には3表(BS/PL/CF)が繋がったものもありますが、本ツールは、シンプルにDCF分析を行いたい場合向けのものとなります。オンラインで主要財務指標がフリーでダウンロードできる「バフェット・コード」のデータを利用して色々な企業の分析にも応用できます。

まず、本ツールの主要な構成としては以下の通りとなっています
①「財務データ」シート
②「DCF分析モデル」シート

使い方の作業フローとしては、

■手順(1):バフェットコードから財務資料をダウンロード

①「バフェットコード」にアクセスします。※Google等のアカウントでログインができます
②トップページから分析したい企業等を入力して、該当企業のページを開きます
③左サイドに「業績」タブがあるので、業績概要ページを開きます
④概要ページの右側に「ダウンロード」とあるので、そこからエクセルデータをダウンロードします
バフェットコードURL.PNG

※バフェットコード様との利益供与等はございません。バフェットコード様サイトからのダウンロードデータの仕様については定期的に確認しておりますが、当該サイトにて仕様の変更等が生じた場合は部分的に本エクセル操作に差異が出る可能性もありますこと、ご留意ください。

■手順(2):ダウンロードした財務データを分析ツールにコピー
①ダウンロードしたファイルを開き、1行目から4行目をコピーします。標準名はfinancial.csv 或いは、financial_[証券コード].csvとなっていることが多いです
②コピーしたデータをツールの「財務データ」(赤色タブ)シートに貼り付けます。※1~4行目に、上書きでは貼り付けをお願いします
ダウンロードしたデータの読み込み.png

以上までのプロセスで「DCF分析モデル」シートにおいて、過去実績数値とDCF前提パラメーターの一部が反映される形となります。
手順①②で反映される内容.png


■手順(3):DCF分析の追加パラメーターを設定

この部分の追加設定を入力していきます。具体的には①ベータ値と②リスクフリーレートを外部サイトから取得する必要があります。
DCF追加パラメーター.png

①ベータ値については、バフェットコードの企業概要ページに「ベータ値」が掲載されています
バフェットコード・β値.png

②リスクフリーレートとして使われる国債利回り等は情報ベンダーであるBloomberg等で確認できます
Risk-free.png
③尚、追加として(a)マーケット・リスク・プレミアムと(b)借入金利率の設定も厳密に行う上では必要となりますが、(a)マーケット・リスク・プレミアムは、足元やや低下傾向ながら本稿執筆時点では6%のままで大丈夫そうです。また、(b)借入金利率も本来的には企業の社債金利等を参考にすることが多いですが、便宜的な計算としては、日本の低金利環境を考えれば0.5%程度でも良いかと思っています(厳密に調整する場合には、有価証券報告書や財務諸表から個別の計算が必要になります)。

■手順(4):予想値の作成

ここまでで大枠の設定はできました。
①次に、予想値の作成をする必要があります。具体的な設定個所としては、以下の赤枠ところで、売上成長率や利益率の設定を入れると、予想値の期間中(FY+1~+5)、同じ数値が反映されます。例えば下記の事例であれば、予想値の期間中は毎年10%売上高が成長する前提となります。
※尚、同じ数値が入るのは簡易的な設定となります。厳密に分析したい場合は、個別の年度ごとに成長率を変えたりするアプローチもありますが、本シートではあくまでも一定数値が入る設定をしています。

②最後に、永続成長率を設定します(以下の青枠)。分析対象企業の長期的な成長性、或いはGDP成長率等を参考にすることが多いです。ここでは0%として設定しています。
予想値の設定.png

■手順(5):結果の確認

「DCF分析モデル」シートの「DCF分析」→「E欄」に前提条件・DCFに基づく株価が表示されます。実務にあたっては割引率と永続成長率の感応度を付与することが多いので、合わせて確認できます。
結果の確認.png

本ケースにおいて算出される理論株価は約14,700円となります。

尚、本ケースにおいてダイキン工業を使用していますが、足元の株価は24,890円(10月末・29日時点)となっており、やや乖離が大きいです。その要因を少し考察します。

まず、将来予想値について、売上高は10%成長、営業利益率は11%程度を設定していますが、直近の決算短信を見ると、会社の2022年3月期業績予想において、売上高は前年同期比12.7%成長、また、営業利益率も10%程度を見込んでいるようなので、予想値の設定はそこまで遠くは無い水準かと思います。
ダイキン通期見通し.png

一方で、DCFパラメーターを見ると、足元ではマーケット・リスク・プレミアムが低下していることを踏まえ、5%として設定を変更します。また、永続成長率についても、ダイキン工業はグローバルで事業展開している企業なので、0%ではなく、それより高い成長率を設定できるのではないかと考えることも可能だと思います。例えば世界経済の成長率は中期的には3%程度と言われていることもありますが、少し保守的に見積もって、その半分の1.5%を設定します。

パラメーターを微調整した結果は以下の通りとなり、約25,600円程度の理論株価となり、大よそ今の株価と同程度~やや高めの水準が算出されることが見受けられます。
パラメーター変更後のDCF結果.png

DCF分析による理論株価計算は前提条件の設定により結果が大きく変わるので、このように、微調整をしながら分析結果の精度を高めていく必要もあります。
※本資料は特定の株式の購入や売却等を勧誘するものではありません。投資に関する決定は利用者ご自身の判断でなさるようお願いいたします。

また、最後に1つ留意点として、金融業(銀行など)といった、事業会社ではない会社については本ツールを使用してもデータが十分に反映されない可能性があります。
やや細かい話になりますが、上記のDCF分析は、いわゆる「エンタープライズDCF」と呼ばれるもので、Unlevered Free Cash Flow(ブログ第7回ご参照)を資本コストWACC(Weighted Average Cost of Capital、有利子負債コストと株主資本コストの加重平均)で割り引いて求めるのですが、銀行などの金融機関では、事業会社と比べた時のバランスシートの構造の違い(例えば銀行にとっての”負債”とは”預金”であったり)や、有利子負債のコストを求めることが困難なことも多い、といったハードルが挙げられます。そのため、金融機関の評価においては、株主に帰属するキャッシュフローを株主資本コストで割り引く「エクイティDCF」という、少し違ったアプローチが採用されることが多いです。

以上となります。最後までお読みいただき、誠に有難うございます!

【本ブログで取り上げている資料】
内容が参考になりましたら、ご購入をご検討頂けますと幸いです!

【ディスクレーマー】
将来財務数値に関する予想並びに財務数値実績について、作成にあたって各種開示資料は参考にしていますが、内容や情報の正確性については一切保証しません。また、市場データ等についてもその完全性は保証しません。本資料はコーポレート・ファイナンスに関連する学習のための参考資料であり、便宜的な仮定や前提が含まれていることにご留意ください。また、特定の株式の購入や売却等を勧誘するものではありません。本資料の利用によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。
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