『やさしさ迷惑20/100』
第20話誰も悪くないのに、信じられなくなる前話:黒川恒一郎が田辺案件に加わった。彼の言葉は正しく、的確だった。しかし、その正しさの後にチームの会話は少しずつ細くなった。佐伯は聞きに来なくなり、真壁は軽口を失い、優作は自分たちのやり方が甘かったのかもしれないと揺れ始めていた。翌朝。オフィスは、いつも通りに見えた。佐伯は自分の席で資料を開いている。真壁は先方との調整メモを見ている。桐谷はコーヒーを片手に画面を眺めている。美月は、誰より早く今日のタスクを整理していた。音だけ聞けば、昨日までと変わらない。キーボードの音。電話の呼び出し音。椅子を引く音。でも、何かが違った。誰も、雑談をしない。真壁の「ちょっとだけ」がない。桐谷の軽口がない。佐伯の「中村さん、少し見てもらっていいですか」がない。優作は、その静けさを見ていた。集中しているようにも見える。でも、違う。これは、たぶん集中じゃない。言葉を出す前に、みんなが一度飲み込んでいる。そんな静けさだった。十時。田辺案件の確認会議が始まった。黒川も同席している。黒川は前回と同じように、淡々としていた。「今日は、役割と責任範囲を明確にしましょう」誰も反対しなかった。黒川はホワイトボードに書いた。・先方調整・資料構成・確認項目・リスク整理・最終判断「このチームは、確認は丁寧です。そこは強みだと思います」一瞬、空気が少しだけ緩みかけた。だが黒川は続けた。「ただ、誰が最終責任を持つのかが曖昧です」その一言で、空気がまた固まった。黒川は責めていない。怒ってもいない。ただ、事実を言っている。でもその事実は、それぞれの胸に違う形で刺さった。佐伯は、うつむい
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