第2話「偶然のメッセージ」
朝の光は。昨日の夜の涙を、なかったことにするみたいに淡かった。澪は、目覚ましの音より先に目を覚ました。身体は寝たはずなのに。心だけが、まだ夢の中に置いてきたものを探している。枕の端を指で触れる。乾いている。夢みたいに。確かに濡れていたはずなのに。朝になると、痕跡だけが薄くなる。それでも。胸の奥の熱だけは残っていた。誰かの背中。光の糸。そして「焦らないで」という言葉。澪は、あの言葉が不思議でたまらなかった。慰めでもない。命令でもない。ただ、静かに“戻ってくる場所”を指差すような声。洗面台で顔を洗う。冷たい水が頬を打つ。現実が戻る。戻るのに。心の中の違和感だけが、まだ残る。スキンケアをしながら、澪は鏡の中の自分を見る。ちゃんとしている。いつも通りの顔。仕事に行ける顔。笑える顔。でもその顔の奥に。「自分がどう感じているか」を置き去りにしてきた年月がある。それを、今さら拾いに行くのは。少し怖い。怖いけど。拾わないと、これから先ずっと同じ違和感が続く気がした。玄関を出る。空気は冷えている。駅へ向かう道に、小さな霜が残っている。白い息が出る。息が出るだけで、生きている感じが少し戻る。電車に乗る。吊り革に掴まる。人の気配が近い。朝の匂い。整髪料。コーヒー。コートの湿り気。澪は、無意識に肩をすくめた。人混みは、心の膜を薄くする。他人の波が入ってくる。それを防ぐために、澪はいつも自分を固くする。でも今日は。少しだけ試してみようと思った。固くする代わりに。息を吐く。吐いて、肩を落とす。「私はここにいていい」と、心の中で一度だけ唱える。すると。不思議に、視界が少しだけ広がった。人の気配が減ったわけじ
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