文庫本のビジネスモデルの危機(業界内にいないと気づかない話)
「最近、本を買わなくなったな」
そう思ったことはありませんか。
かつては駅の売店で、ふと目に入った文庫本を手に取り、帰りの電車の中でページを開く。それだけで、知らない世界に連れていってもらえた。自分の人生とはまったく関係のない物語や思想に触れ、少しだけ世界が広がる感覚。文庫本は、そんな体験を誰にでも開いてくれていました。
しかし、その文庫本を取り巻く世界が、静かに、しかし確実に変わり始めています。
それを実感したのは、つい先日、ある中堅出版社の編集者と話をしたときのことでした。
苦い顔の理由
その出版社は、誰もが知っている有名な文庫シリーズを二つ持っています。長年、日本の読者に愛されてきた看板シリーズです。
私は何気なく尋ねました。
「最近の業績、どんな感じですか?」
その編集者は、少しだけ苦い顔をして、こう答えました。
「いえいえ、厳しいですよ」
その表情を見た瞬間、私は「ああ、やはりそうか」と思いました。出版業界の内部にいる者にとっては、決して意外な答えではなかったからです。
一般の読者にはあまり知られていませんが、文庫本には独特のビジネスモデルがあります。
それは、「出し続けなければならない」という宿命です。
文庫は“止まることが許されない”
文庫本は、毎月必ず新刊を出し続ける必要があります。
なぜなら、書店の文庫棚は「固定された場所」ではないからです。そこは常に奪い合いの場です。もし新刊の刊行が止まれば、その出版社の文庫のスペースは、すぐに他社の文庫に置き換えられてしまいます。
棚は、売れているものに与えられます。動きが止まったものから、静かに消えていく。
だから出版社
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