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いまの自分の気持ちを、そのまま置いていい場所がある

放課後のチャイムが鳴る。凪は、ゆっくりと鞄を持ち上げた。いつもと同じ動作。同じ教室。同じ帰り支度。なのに、心だけが少し違う。「先、行く?」悠真が、何でもないことのように言う。「……うん」その返事が、昨日よりほんの少しだけ、迷わなかった。廊下に出ると、クラスメイトたちの声が重なり合って、すぐに日常に溶けていく。凪と悠真は、その流れから少し外れて歩く。近すぎず、離れすぎず。凪は、ふと思う。——昨日までの私は、——「何も言わないことで守ってきた」。平気な顔をして、大丈夫なふりをして、自分の気持ちを置き去りにして。でも今日は、違う。「ね」凪は、足を止めずに言った。「私さ」「前より、ちゃんと話せるかも」悠真は、少し驚いたように、でも、すぐに歩調を合わせる。「それは、いいこと?」凪は、少しだけ考えてから答える。「……たぶん」「怖いけど」正直な言葉だった。悠真は、「そっか」とだけ言った。無理に背中を押さない。理由を聞かない。でも、受け取っている。凪は、その横顔を見て、胸の奥が、静かにあたたかくなる。——分かってもらえた、気がした。未来の約束なんて、まだいらない。恋人、という名前も、まだ持たなくていい。ただ、いまの自分の気持ちを、そのまま置いていい場所がある。それだけで、歩く道は、少し明るく見えた。夕方の光が、二人の影を長く伸ばす。昨日と同じ道。同じ景色。でも、凪は確信していた。——もう、同じ自分じゃない。小さくて、でも確かな変化が、胸の奥で息をしていた。
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10分の1の力で、 ——伝わる想い

翌朝。教室に入った瞬間、凪は少しだけ空気が違うことに気づいた。視線は、ある。噂も、完全には消えていない。でも——刺すような感じが、ない。(あれ……)席に向かう途中、誰かが小さく会釈をした。それだけで、胸の奥が、じんわり温かくなる。——全部を変えなくていい。——ゼロか百かじゃなくていい。そんなふうに、世界が少しだけ緩んだ気がした。席に着くと、悠真が、いつものように隣に来る。「おはよ」短い言葉。でも、声が近い。「……おはよう」凪は、少しだけ笑った。昨日のことを、誰も口にはしない。でも、二人の間には、確かに“共有された時間”が残っていた。チャイムが鳴る。授業が始まり、ノートを取る。何でもない朝。それなのに、凪の心臓は、小さく、高鳴っていた。——これが、続くってことなのかもしれない。強い言葉も、劇的な約束もない。ただ、隣にいる。放課後。昇降口で靴を履き替えながら、凪は、ふと立ち止まった。「ね」悠真が振り返る。「昨日のことなんだけど」言いかけて、少し迷う。「……ありがとう」悠真は、首をかしげる。「何が?」凪は、少しだけ考えてから言った。「離れなかったこと」その一言で、悠真の表情が、柔らかくなる。「それは」「約束じゃない」一拍。「選択」凪は、その言葉を噛みしめる。「……そっか」二人は、校舎を出る。夕方の風が、制服の裾を揺らす。歩きながら、自然に、手が近づく。触れるか、触れないか。一瞬の迷いのあと、凪は、自分から指を伸ばした。ぎゅっと、ではない。強くもない。でも、離れない力。悠真は、驚いたように一瞬目を見開き、それから、同じ力で握り返した。——10分の1の力で、——伝わる想い。凪は、思う。守
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