絞り込み条件を変更する
検索条件を絞り込む

すべてのカテゴリ

2 件中 1 - 2 件表示
カバー画像

10分の1の力で、 ——伝わる想い

翌朝。教室に入った瞬間、凪は少しだけ空気が違うことに気づいた。視線は、ある。噂も、完全には消えていない。でも——刺すような感じが、ない。(あれ……)席に向かう途中、誰かが小さく会釈をした。それだけで、胸の奥が、じんわり温かくなる。——全部を変えなくていい。——ゼロか百かじゃなくていい。そんなふうに、世界が少しだけ緩んだ気がした。席に着くと、悠真が、いつものように隣に来る。「おはよ」短い言葉。でも、声が近い。「……おはよう」凪は、少しだけ笑った。昨日のことを、誰も口にはしない。でも、二人の間には、確かに“共有された時間”が残っていた。チャイムが鳴る。授業が始まり、ノートを取る。何でもない朝。それなのに、凪の心臓は、小さく、高鳴っていた。——これが、続くってことなのかもしれない。強い言葉も、劇的な約束もない。ただ、隣にいる。放課後。昇降口で靴を履き替えながら、凪は、ふと立ち止まった。「ね」悠真が振り返る。「昨日のことなんだけど」言いかけて、少し迷う。「……ありがとう」悠真は、首をかしげる。「何が?」凪は、少しだけ考えてから言った。「離れなかったこと」その一言で、悠真の表情が、柔らかくなる。「それは」「約束じゃない」一拍。「選択」凪は、その言葉を噛みしめる。「……そっか」二人は、校舎を出る。夕方の風が、制服の裾を揺らす。歩きながら、自然に、手が近づく。触れるか、触れないか。一瞬の迷いのあと、凪は、自分から指を伸ばした。ぎゅっと、ではない。強くもない。でも、離れない力。悠真は、驚いたように一瞬目を見開き、それから、同じ力で握り返した。——10分の1の力で、——伝わる想い。凪は、思う。守
0
カバー画像

悠真がいなくなるのは、嫌

放課後の空は、昼間より少しだけ低く感じた。校門を出てから、凪と悠真は、並んで歩いていた。言葉は、ない。気まずいわけでもない。ただ、お互いに、何かを考えているのがわかる沈黙。——この沈黙、前はなかった。凪は、ふと気づく。噂が広がっていた頃。誰かに見られていた頃。悠真は、いつも一歩前にいた。でも今は、隣にいる。同じ速さで。それが、少しだけ怖かった。(もし……)考えたくない想像が、胸の奥に浮かぶ。もし、これ以上巻き込んだら。もし、悠真が、疲れてしまったら。「……ねえ」凪は、立ち止まる。悠真も、足を止める。夕焼けの光が、二人の影を、同じ長さに伸ばしていた。「私のせいで」「大変なことになってない?」言葉にした瞬間、胸が、ぎゅっと締まる。悠真は、すぐには答えなかった。少しだけ、視線を落としてから、言う。「正直に言うと」凪の心臓が、跳ねる。「……ちょっと、怖かった」その一言で、凪の中の何かが、崩れた。「凪を守りたい気持ちと」「俺が前に出すぎたら、     凪が立てなくなるって気持ちと」「どっちも、本当で」悠真は、苦笑する。「うまくやれてるって、言えない」その表情が、あまりにも人間らしくて。凪は、思った。——この人を、失うかもしれない。初めて、はっきりと。それは、噂よりも、三條よりも、ずっと怖い感情だった。「……私」凪は、拳を握る。「悠真がいなくなるのは、嫌」声が震える。でも、止めない。「守られなくてもいい」「前に出てくれなくてもいい」「それでも」「一緒にいるのは、悠真がいい」言い切った瞬間、胸の奥が、熱くなる。——ああ。これは、不安でも、依存でもない。恋だ。悠真は、目を見開いてから、ゆっくり
0
2 件中 1 - 2